エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【329】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2015年9月1日号の掲載記事です。
本だけ眺めてくらしたい
このところ、異なるメディアが添付された本の整理をしている。
古くは薄っぺらで軟らかいレコード――「ソノシート」と言っていた――付きの本。
八〇年代に流行ったのがカセットブック。その後、ビデオテープ付きの本なども登場した。
この場合の「整理」はソノシートやカセットテープの音声、ビデオテープの映像をデジタルデータ化するということで、今のうちにやっておかなければ、そのうち再生できなくなる。
それに、添付されたメディアに収録された音声や映像は、音楽や映画のように市販ソフトとして再発売されることはないし、本の内容と不可分の貴重な資料だからだ。
今ごろ? と思われるかも知れない。
必要のある人は既にやっているか、今や多くの人はレコードプレーヤー、カセットやビデオの再生機を持っていないだろう。
ただ、デジタル化は新しい機材や規格ほど高品質、操作性がよく、そのタイミングは難しくて悩む。
オーディオが趣味だったので、保有するレコードプレーヤーとカセットデッキは今も現役だ。
ビデオは録画したテレビ番組や、市販の映像ソフトでDVD化されていないものをデジタル化するために再生専用機を二年ほど前に購入。
使い倒してオシャカになったので、今年また購入した。
ところで、三十年以上も前のカセットテープを高速で最後まで巻き戻したりすると、テープをリール(回転する輪)に留めているプラスチック部品が劣化ゆえに折れ、テープが切れてしまうことがたまにある。
ただ、カセットテープはモノとして単純な機構なので、シェル(本体ケース)を開けてとりあえず接着するなどして、もう一度だけでも再生することができれば、デジタル化して何度でも手軽に聴けるようになる。
ビデオはそうはいかない。
リールが回転しなくなったり、カビたり、テープが変質して画像が乱れることがあるが、もうどうしようもない。
その点、ソノシートは致命的な傷さえついてなければ、今でもふつうに再生することができる。
再生機の入手や、メディアそのものの劣化、自力で補修が可能か、コストなど、総合的に考えると新しいメディアほどリスクが大きいと言える。
デジタル環境なんて将来どうなることやら。
紙に文字や図像を印刷しただけの本に、ややこしい問題は何もない。
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)