エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【321】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【321】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2015年1月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

NHKテレビ「クローズアップ現代」の二〇一四年十二月十日放送分、「広がる“読書ゼロ”~日本人に何が~」をある意味で興味深く観た。
文化庁が先ごろ発表した読書に関するアンケート調査結果によると、対象者二千人のうち、ほぼ半数の四七・五%が「一か月に一冊も本を読まない」と回答したという。
この調査結果を踏まえた番組の内容は、読書をしない学生に見られる問題点や読書が脳にもたらす効果を学者の研究や実験をもとに示すという、いつものように、予断に満ちたストーリーを組み立てる「客観的」素材をNHKの看板力で集め、手馴れた編集でまとめました……とでも言える「クローズアップ現代」定番の展開だった。

ところが、おもしろいことに、その日のゲスト出演者だった立花隆は、取材VTRに対するコメントを求められて、「今のようなコンテキスト(=文脈。つまり、番組が意図した流れ)だと、スマホやインターネットを否定的に捉え、若者の知的劣化が進んでいるという結論になるのだろうが、私が知る現実はそれらを利用して知的活動を膨らませている若者はとても多い」し、「読書による脳の反応は人によって違う」。そもそも「読書を知的側面だけで論じることは多面的な本の世界を矮小化することだ」といった趣旨の発言をして、番組が用意していた「筋書き」を初手からひっくり返した。

司会者は、あわてた表情を隠し切れないながらも、さすがにこの番組を長年にわたって仕切ってきただけあって、調和的な着地点を手探りするように、“くい気味”で別の質問を次々と立花隆に投げかけていたのが印象的で、観ているこちら側もドキドキした。
本や読書に対する紋切り型の認識といい、書物に関する著書の多い立花隆の持論を把握していなかったことといい、この番組のこの回のディレクターこそ、実はあまり本を読まない人ではないかと想像してしまう。

VTRの中で「上から見下すようにバカにされた学生」(と、立花隆が番組の姿勢を評した)同様に、番組ディレクターもインターネットで検索するだけで、問題を自ら掘り下げずに企画書を作成、取材対象やゲスト候補をググったのだとすれば、その意味ではこの番組こそ「読書ゼロ」の実態と言えそうだ。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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