フットハットがゆく【335】「田舎ウォーズ4」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2021年11月1日号の掲載記事です。
田舎ウォーズ4
このエッセイで、僕が今年飼い始めたミツバチのことについてさんざん書いてきましたが、つい先日滅亡してしまいました。
滅亡というと大げさな表現かもしれませんが、全盛期には2~3万匹ものミツバチがいたので、一大帝国といえましょう。
養蜂1年目の僕にとって新しい発見の連続で、刺されて痛い思いもしましたが、ハチミツも採れたし、楽しい思い出がたくさんできました。だから、滅亡は非常にショックです。
帝国滅亡の直接的な原因はスズメバチという侵略軍です。
スズメバチは様々な虫をアゴで噛み砕いて肉団子にし、巣に持ち帰って幼虫に与えます。
スズメバチ自身は肉を消化することはできず、幼虫が出す甘い汁や樹液を吸って生きるという、獰猛さの割に慎ましい生き方をします。
人間を刺すとアレルギーショックで死に至らしめることもあるという害虫であり、農作物を荒らす害虫を退治する益虫の面もあります。
ミツバチを育てる養蜂家にとってスズメバチは天敵であり、一度巣を狙われるとしつこく攻撃を受け、全滅させられることもよくある話です。
集めた情報によると、今年は特にスズメバチが多く、僕の参加する養蜂グループの大半の巣箱が全滅してしまい、大打撃を受けました。
しかし、スズメバチが来る前に全滅した巣箱もあり、理由がわからず、ミステリー殺人のような迷宮に入りかけたところ、タイミング的に農薬の散布が関係あるのではないかという話になりました。
田舎なので田んぼだらけですが、稲が実ってくると、それを狙った害虫が大量発生します。
これまではチューブで農薬を撒いていたらしいですが、今年から最新技術のドローンで農薬を散布したそうです。
ミステリー的にミツバチが全滅した巣箱は田んぼのすぐ横にありましたので、ドローンでこれまでより広範囲に撒かれた農薬の影響を受けてしまったと、思えなくもありません。
確実な証拠はないので、なんともいえませんが。
うちの巣箱は、直接田んぼの横ではないですが、後から考えると、あるタイミングからミツバチの数がどんどん減少して、巣力が弱まっていきました。
それは農薬散布の時期と合うので、少なからず影響を受けたものと想像できます。多くの虫が人間の農薬で殺された結果、それらの虫を捕っていたスズメバチの餌が不足し、危険を冒してミツバチの巣を襲いに来たとも考えられます。
農薬でミツバチ自体の巣力が弱まったところに、農薬により餌を失ったスズメバチの襲撃を繰り返し受けて全滅…それが滅亡の悲しいシナリオだったのかもしれません。
田舎ウォーズと称して、田舎に登場する恐い獣や虫のシリーズを書いてきましたが、本当に怖いのは人間だった…。
まるでB級映画のような結末ですが、だからといって農家の人に農薬を使うなとはいえません。もっと根深い事情があるのもわかります。
田舎で田舎らしい理想の美しい生活を送るためには、戦わなければならない相手は数えきれず、それは虫や獣だけではないのです。
田舎暮らし公開中! YouTube『塩見多一郎』で検索!
MK新聞について
「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。
ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。