フットハットがゆく【327】「暗闇オバケ」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2021年3月1日号の掲載記事です。
暗闇オバケ
田舎暮らしをしていてフッと思いました。最近、対向車のライトがまぶしいと。
僕はこう考えました。田舎は街灯が少なくて暗いからだと。
下手すれば街灯もなくただただ真っ暗な道もあります。
自分の車のライト以外に光るものがない道で、暗い景色に目が慣れたところに対向車のヘッドライトを見れば、それはまぶしく感じるはずです。都会は夜でも明るいですから、まばゆい光に目が慣れているのでしょう。
もう一つ考えたのは、自分の歳のせいだと。
人間の目は45歳くらいから退化が始まり、よりまぶしさを感じるようになるそうです。
目の水晶体がだんだんと傷んできて、光が乱反射するのが理由だそうです。51歳の僕が、若い頃よりも対向車のライトにまぶしさを感じても不思議ではありません。
でもまぁ頭がまぶしくなるよりはマシかなと思っております。
さらにもう一つ決定的な事実がありました。
車のライト自体が明るく進化しているのです。
電球よりも低電力でより明るくなったLEDライトの時代が来て、車のライトもLEDが増えました。運転する方は視界が以前よりも明るくなって良いですが、対向車の方はまぶしくてかなわんのです。
さらに田舎あるあるですが、暗い夜道はハイビームにしなければ本当に道が見えにくいです。いつ、シカやタヌキが飛び出してくるかもわからないので、遠くの方にまで光が届くハイビームは便利で安全です。
そしてついつい対向車が来た時も、元に戻すのを忘れて相手にまぶしい思いをさせてしまうのが、田舎あるあるです。
おじさんになって若いころよりもまぶしさを感じる眼で、田舎の街灯もない真っ暗な道に目が慣れたところに、LEDでより明るくなった対向車のヘッドライトがハイビームで来た時、それはもう映画の中で宇宙人にさらわれるシーンかのようにまぶしくて目の前が真っ白になります。
そして対向車が走り去った後、青白い光が網膜に残り、1~2秒ほど何も見えなくなります。
こんなことで事故ってしまっては悲しいので、対向車がハイビームで来た時は速度を下げて、パッシングで合図します。
実際僕も、相手にパッシングされて、自分がハイビームだったことに気づく場合があります。
田舎の道は暗い、というつながりでいきますと、深夜に運転していて「出た!」と思うことがよくあります。
真っ黒な髪に真っ黒な上着とミニスカートでハイヒールの女性に後ろからライトが当たりますと、足だけ歩いているように見えて「出た! 足だけオバケ!」と思い、正体がわかるまでビビりました。
カーブを曲がったところに直立不動のまますごいスピードでシューっと近づいてきた人がいて、「出た! 浮遊霊体!」と思い卒倒しかけましたが、それはスケボーに乗って坂道を下ってくる若者でした。
黒い服を着て暗闇でスマホを見ている人は、顔だけボゥ~ッと青白く光ってかなり不気味で一瞬心臓が止まりかけるので、田舎で歩きスマホはやめてほしいです。
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