フットハットがゆく【183】「惑うな!」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2009年7月1日号の掲載記事です。
惑うな!
僕はビデオの撮影、編集を仕事にしています。
趣味はスポーツ観戦です。
このスポーツの知識というのは、僕の仕事に大いに役立ちます。
例えば野球には「緩急」という言葉があり、ピッチャーの投球に対して使われます。
速球ばかりを投げると、バッターも目が慣れてきますから、時おり遅い球を混ぜるわけです。
遅い球にタイミングがずれて空振りしてくれたらもうけもん。
仮に見送られても、バッターは一度遅い球を見てしまっているわけですから、次に速い球が来るとより速く感じてしまい、見事に空振りするのです。
緩急自在の投球…この考え方はビデオに応用出来ます。
撮影する時に引いた絵(全体像)ばかりを撮ると、たしかに客観的にはよく見えますが、だんだんと飽きてきます。
だから時おり寄りの絵(アップ)を混ぜ、メリハリをつけるわけです。
逆にアップばかりだとしんどくなって来るので、投球と同じくバランスや組み立てが大事です。
「緩急」に似ていますが、「チェンジ・オブ・ペース」という技術もあります。
サッカーやラグビーでよく使われます。ボールをドリブルしながら一直線に同じ速度で走ると、追いかけるバックスとしては予測しやすくボールも奪いやすいのです。
しかし、ドリブラーがふとスピードを落とすと、バックスもそれに合わせてスピードを落とします。
その瞬間を見計らっていきなりトップギアで走り始めると、タイミングをずらされたバックスは一気に抜き去られてしまう…というわけです。
マラドーナの伝説の五人抜きドリブルにも、この技術が使われていますね。
ビデオを編集する際にBGMを挿入しますが、「チェンジ・オブ・ペース」の考えが大いに役立ちます。
例えば、似た曲調のBGMが続くと視聴者も飽きてきます。
あえて、無音の状態を作ったり曲調を変える事で、よりBGMの効果が増すことになります。
あらゆるスポーツの定番技術のひとつに「フェイント」があります。
相手を惑わすための見せかけ動作のことです。
例えば僕はストリートダンスのPVをよく作りますが、ノリのいいBGMのテンポに合わせてカットを変えると、リズムと映像がシンクロして非常に気持ちいい具合になります。
しかし、それがずっと続くとそれが当たり前になってしまい、気持ちよさも薄れます。
そこでフェイントをかけて、いったんカット割りとBGMのテンポをずらすのです。この技術は映画やミュージックビデオなどでもよく使われます。
いったんフェイントが入った方が、タイミングが合致した時の気持ちよさが増すわけです。
最近は、ホームビデオで撮影したものをパソコンで簡単に編集出来るので、ビデオマンのみなさん惑うなかれ、ぜひスポーツ技術の応用を試してみて下さい!
ビデオ以外にもいろいろ応用出来ます。
料理、カラオケ、デートなど実生活にも使えます。
でもデートの最中に「チェンジ・オブ・ペース!」とかいっていきなり走り出したらダメですよ!
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