フットハットがゆく【164】「身は悪鬼?ヒーロー?」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2008年9月1日号の掲載記事です。
身は悪鬼?ヒーロー?
僕は宗教やスピリチュアルなことには詳しくはないが、輪廻(りんね)転生というものは信じている。
人には前世があるのだ…。
我が身の前世は悪鬼かヒーローか?というか前世が人間とは限らない。
例えば、うちの近所で時々見かけるおばちゃんは、いつも手さげ鞄を腕にかけ、手首を前に曲げてひょいひょいと歩く。
そして鞄を持っていない時でも、両手の肘と手首を曲げたまま歩いていた。
これはほぼ99%、前世はカマキリといっていいだろう。
もし、「好物は?」と聞かれれば、「イナゴの佃煮」と答えるでしょう…。
知り合いの女の子は、大の筍(たけのこ)好き。
シーズンが来れば異常にワクワクして、ほぼ毎日筍を食べるそうだ。
筍と心中してもいいというほどだから、前世は明らかに筍を主食としていた生き物である。そこで僕は、
「多分、きみの前世は筍につく虫の類(たぐい)やな…」といった。
「え?そんな虫いるんですか?」
「なんか筍虫とかいうのんがいた気がする…」
いやいや、若い女性に向かって「前世は筍虫」とは何ともデリカシーに欠ける発言…
しかも家に帰ってよくよく調べてみると「筍虫」というのはウマバエの幼虫のことで、形状が筍に似ているからそう呼ばれるそう…
筍好きとは関係ない…。
どんな人だって「前世はウマバエの幼虫」といわれて嬉しかろうはずはない。
さらに調べると、筍を主食にする生き物が他にも…パンダである。
パンダの主食は「笹、竹、タケノコ」と図鑑にも書いてある。
次の日その子に、
「きみの前世は筍虫ではなく、実はパンダだった」というと、
「私が丸顔でたれ目だからパンダですか?」とムッとされた。
いやはや、女性の前世を当てるのは、ある意味難しい…。
先日出かけたバーベキューに来ていた若い女の子が、川でカエルを見つけて異様に怖がっていた。
友達がそれを面白がり、カエルを見つけては彼女に突き出し、その度にその子は気絶しそうな声で絶叫していた。
しかし僕は解せなかった。どう見てもその女の子は「カエル顔」なのである。
なぜ、けろっこデメタンの様なカエル顔の子が、同類のカエルをそんなに怖がるのか…?
そこでふっと思い出した。僕は小学生の頃ブラジルに住んでおり、旅行ででかけたアマゾン近くのホテルの庭で夜、体長25㎝ほどの巨大ガエルを見かけた。
そのカエルは、街灯の下に落ちてくるカブトムシを捕っては食べていた。
カメレオンのように、シュパッと舌で巻き取って食べるのである。
そしてそこには、虫を求めて集まる小型のカエルもいた。目の前で動くものは何でも、瞬時に口に運ぶのがカエルの習性…。
小さな虫を捕るのに夢中になっていた小型ガエルは、シュパッとモンスターガエルに食べられてしまった…。
僕はバーベキューで知り合ったその子を見ながら、
「きみの前世は、ブラジルのアマゾンで大型のカエルに食べられた、小型のカエルだよ…。だからカエル顔なのにカエルが恐いんだよ…」と思った…。
が、筍の轍があるので、いわずに黙っておいた。
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