フットハットがゆく【162】「甘み有期」｜MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2008年8月1日号の掲載記事です。
甘み有期
僕はアラフォーである。
アラフォーというのは「Around40（アラウンド・フォーティー）」の略で、40歳前後の世代…という意味である。
天海祐希さん主演のテレビドラマで、この言葉が広まった。
最初、40歳前後の女性のことをいっていたのだが、最近では男性もアラフォーといったり、30歳前後をアラサー（アラウンド・サーティー）、50歳前後をアラフィー（アラウンド・フィフティー）といったりする。
この『アラ…』シリーズはとても便利である。
例えば僕は今39歳…本来の言い方なら「30代」ということになる。
しかし来年40歳になるといきなり「40代」へと変わってしまうのである。
これは何か急に歳をとったようで寂しい…。そこでアラフォーの出番である。
俗にアラフォーといわれる世代は35歳〜45歳といわれる。
僕は39歳だから現在アラフォーである。
そして来年も、再来年もずっとアラフォーのままである。
では46歳になったらアラフィーになってしまうのかというと、その時は「40代です！」と言い張り、そして49歳になったころ「アラフィー」です、と言い出すのである。
このように竹の節目を少しずつぼかしながら、世代の持つ甘みの有期を少しずつ遅らせるのである。
男性以上に年齢を気にする女性発祥で、このような言葉が出てくるのもうなずける。
「今年29歳の女性たち…あなたは現在『20代』でも、来年は『30代』といわれ、いきなり『おばさん』の仲間入りのようにいわれます。でも、ご心配なく！ あなたは今年も来年も『アラサー』のままですヨ。ちなみに『エビちゃん』（28）も『押切もえちゃん』（28）も『神田うのちゃん』（33）も、あなたと同じ『アラサー』ですからご安心！」
「今年59歳の方々…あなたは現在『50代』でも来年は『60代』だの『還暦』だの『定年』だのいわれて、いきなり『老人会』の仲間入りのようにいわれます。でも、ご心配なく！ あなたは今年も来年も『アラシック』（アラウンド・シックスティー）のままですヨ。女優『吉永小百合さん』（63）も『松坂慶子さん』（56）も、名司会『みのもんたさん』（63）も闘将『星野仙一さん』（61）もみ～んな、あなたと同じ『アラシック』ですからご安心！」
このように、「周辺」という意味の「around」を省略した『アラ』は非常に便利である。少し応用してみよう。
「今日の降水確率はアラサーです」（30%前後）
「今日のテストの予想点はアラフォーです」（40点前後）
「今度のボーナスはアラワンです」（１ヵ月分前後）
「集合場所はアラ京都駅で」（京都駅周辺）
「彼とはアララブラブです」（ラブラブのようなラブラブじゃないような…）
「アラピーのアラ探しが彼のアラサー」（まわり人々（ピープル）の粗探しをすることが彼の粗です〔沖縄弁〕…。）
あらあら、最後はほとんど意味がわからなくなりましたね（笑）…
まぁ、何事も曖昧にしたがる日本人向けの言葉、それが『アラ』なのである…。
天海祐希 1967～ 日本の女優。宝塚歌劇団の元月組男役トップスター。
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