フットハットがゆく【146】「妄想」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【146】「妄想」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2007年12月1日号の掲載記事です。

孟宗

『妄想タレント』、『妄想キャラ』が最近はやりである。
いわゆる実話ではなく、妄想した話をネタとして披露するものである。

かくいう僕も、かなりの妄想癖がある。
例えば、僕はサッカー観戦が大好きなのだが、ピンチもチャンスもないいわゆるこう着状態へと展開してしまうことも多い。
そんな時、眼はテレビを見ていても、頭の中は妄想ワールドへとトリップしてしまうのだ。

アンダー22歳で構成された五輪日本代表サッカーチーム。
バラバラだったチームをまとめあげたのはキャプテンのM選手だった。
難関といわれたアジアの代表権を勝ち取ったのも、Mの功績が大きかった。
しかしMはその後交通事故に遭い、なんと左足を切断してしまった。
Mは義足となったが、それでもサッカーを続けた。
もちろんプロの選手としては通用しなかったが、そのキャプテンシーと功績を認められて、五輪代表のS監督はなんとMを代表選手として招集したのである。
五輪本戦で、Mはずっとベンチから味方に檄を飛ばし続けた。
その声に呼応するように日本は奇跡的な勝利を繰り返し、ついに決勝戦でブラジルと対戦した。
激しい試合は同点のまま延長戦へと突入、後半ロスタイムに日本はゴール近くでフリーキックを得た。ここでなんとS監督は、キッカーとしてMを投入、奇跡にかけた。
Mは右足でボールを蹴った。
ボールは惜しくもキーパーに弾かれたが、そのあとのクリアボールが偶然にも再び転々とMの前に転がった。
ディフェンダーがカバーに入ったため、Mはどうしても左の義足で蹴らなければならなかったが、思い切って振り抜いた。
魂のこもったボールはゴールネットを揺らし、日本は金メダルを取ったのだった…。
…こんな自作の妄想をしているうちに、僕は涙ボロボロに…。
はたから見ると、ひじょうにつまらない試合を見ながら号泣しているという不可解な男の図ができあがっている…。

僕はいつ何時でもこの妄想ワールドに入れるので、バス停でバスを待っていて、急に爆笑し出したり、車を運転していて信号待ちで急に泣き出したりということもある。
自分がそんなだから、街でそういう状況になっている人のこともよく理解できる。
たまに、ワールドにでかけたまま戻ってこれなくなってしまう場合もあって、苦労することもある。複雑な世界だ。

さて、妄想ということで中国のかの二十四孝の一人、孟宗(もうそう)の逸話を挙げてみる。
病気の母親が雪のつもる冬に「筍(たけのこ)が食べたい」といい始めた。
真冬に筍があるはずはなかったが、孟宗が竹に抱きついて大声で「筍がほしい」と泣き叫ぶと、地面が割れ新しい筍が生えてきたという。
念ずれば通ずというか、孟宗の妄想が強かったため現実になったともいえよう。

僕は両親にたいへん迷惑をかけているが、実際にはなかなか親孝行できていない。
だからいつも『妄想親孝行』をおこなっている…いつか現実になってくれればいいのだが…。

 

孟宗(もうそう) 中国の二十四孝の一人。母親孝行の逸話が孟宗竹の語源に。

孟宗(もうそう)  中国の二十四孝の一人。母親孝行の逸話が孟宗竹の語源に。

 

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