フットハットがゆく【124】「山勘」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【124】「山勘」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2007年1月1日号の掲載記事です。

山勘

新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくおねがいいたします。

さて、去年の12月中頃から、僕はある病気にかかっている。
左目の眼球が動かなくなるという病気だ。
その頃は仕事がとても忙しく、何日か徹夜して1日20時間くらいパソコンに向かい合っているという状況であった。
すると、ある時突然目の焦点が合いづらくなり、やがてものが二つ見えるようになった。
何もかも二つ見える状態だと、一瞬で目が回ってしまい吐き気をもよおすので、片目でしばらく過ごした。
一晩寝れば治るかと思ったが治らず、翌日病院に行った。

最初、町の眼科に行ったが「おそらく神経性のもの」ということで、数日後に神経眼科の先生がいる大学病院に行った。
結果、左目の眼球を引っ張る筋肉が動いていない…とのことだった。
いわゆる斜視というか、カメレオンの目のようになってしまっており、ものが二つ見えてしまうのである。
先生の見立てでは、過労とストレスから来る末梢血管の収縮が原因だろうということであった。
血管の収縮で神経に障害が出て、眼球を色々な方向に引っ張る筋肉が動かなくなってしまったそうなのだ。

それ以来、僕は眼帯をつけ片目での生活を続けている。
いわば『隻眼の男』となったわけだが、薬を飲んで普通の生活を続けていれば2〜3ヵ月で治ることが多いと聞いて、少し安心している。
糖尿病や脳腫瘍が原因で神経障害が起った可能性もゼロではないので、一応そちらの検査も平行して進めている。
仕事にももちろん支障が出て、レギュラーの番組製作も穴をあけてしまい、方々に迷惑をかけた。
あぁ自分は不幸だと嘆いていたが、先生が言うには、末梢血管の収縮というのは、いわゆる過労死の大きな原因なのだそうだ。
心臓や脳の末梢血管に障害が出ると、死に至ることも…。
僕の場合は目に来たので、まだ良かったと言える(ちなみに僕は37歳である)。

さて、隻眼になるととにかく遠近感はつかめないし、視界は半分だし、集中力も散漫になり不便なことが多い。
細かいことにイライラするし、残った方の目を集中的に使うのでドライアイになりがち。
結局1日の半分以上を、両目を閉じて過ごしている感じである。
そんな時に思い出すのが、昔僕自身が知人に言った言葉である。

その知人は両目が不自由で、「友人に海外旅行に誘われたが目のことがあるから全く行く気がしない」と嘆いていた。
そこで僕は「目が見えなくても音や匂いは感じられるのだから、海外旅行に行くのも意味がある。
世の中、両目が開いていても全く何も見えていない人が多い。
逆に心の目をしっかり持っていればいろいろ見えてくるものがあるに違いない…」というようなことを言った。
隻眼ながら、今まさに自分自身にその言葉を言い聞かせている。

また、人間は一部の感覚機能に不自由が出ると、山勘が異様に働き始める…という説もある。
山勘といえば今年の大河ドラマの主人公『山本勘助』…同じ左目に眼帯をしているので、密かに応援しようと思っている。

山本勘助(?~1561) 戦国時代の武将。武田信玄の伝説的軍師。

山本勘助(?~1561) 戦国時代の武将。武田信玄の伝説的軍師。

 

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