秋から冬にかけて開花する珍しい秋咲きの桜(サクラ)の品種6選
目次
桜といえば春ですが、秋から冬に開花する桜があることをご存知の方も多いでしょう。
秋に開花する桜は、紅葉と同時に味わうことができます。冬に開花する桜は、雪景色と同時に楽しむことができます。
秋冬咲きの桜には、十月桜や冬桜、不断桜などの園芸品種があります。実際の品種と呼称が異なることもよくあり、意外とややこしいです。
代表的な秋から冬に開花する桜として、今回は十月桜、冬桜、四季桜、子福桜、不断桜、アーコレードの6品種を取り上げました。
秋冬咲きの桜である6品種の詳細と、京都で秋冬咲きの桜を見られるスポットを紹介します。
桜は本来秋から冬に開花する花である理由と、秋咲きの桜の園芸品種が成立する過程についてはこちらを参照。
桜について
桜(サクラ)は、北半球の温帯に広く分布する、バラ科サクラ属の落葉樹の総称です。
日本に自生している桜は、山桜(ヤマザクラ)、紅山桜(ベニヤマザクラ)、霞桜(カスミザクラ)、大島桜(オオシマザクラ)、熊野桜(クマノザクラ)、江戸彼岸(エドヒガン)、豆桜(マメザクラ)などです。
自生種に加え、野生種の桜ではありませんが、広く植えられている桜の種類として、寒緋桜(カンヒザクラ)、唐実桜(カラミザクラ)などがあります。
これらの桜を交配・選抜することで、600種類とも言われる、多彩な桜の園芸品種ができあがりました。
代表的な桜の園芸品種である染井吉野(ソメイヨシノ)は、エドヒガンとオオシマザクラの種間雑種です。
今回紹介する6品種+αは、中でも秋から冬にかけて開花する桜の品種です。様々な桜を交配し、選抜することで成立しました。
秋冬咲きの桜① 十月桜(ジュウガツザクラ)
十月桜(ジュウガツザクラ)とは
秋から冬に開花する桜の品種として、最も有名な桜ではないでしょうか。
十月桜は、淡紅色で半八重咲き中輪の桜です。
野生種であるマメザクラ(豆桜)とエドヒガン(江戸彼岸)の種間雑種と考えられています。
同じくマメザクラ(豆桜)とエドヒガン(江戸彼岸)の種間雑種であるコヒガン(小彼岸)とは、形態の特徴はほとんど差異がありません。
十月桜が秋から冬にも開花するのに対し、コヒガンは春にソメイヨシノに一週間ほどさきがけて開花するという点が異なります。
コヒガンのうち、秋咲き性のものを、十月桜と分類する場合もあります。
十月桜という名前のとおり、十月頃から開花しはじめます。
ただし、旧暦の十月は概ね今の十一月に当たります。
冬には花の数はわずかになりますが、春に本格的な見頃を迎えます。
十月桜は、江戸時代から記録が残る古い品種です。
旧暦の時代から十月桜と言われてきました。
「御会式桜(おえしきざくら)」など、固有名詞を付けて呼ばれていることもあります。日蓮宗系の寺院でよく植えられている御会式桜は、品種としては十月桜になります。
「十月桜」と呼ばれている桜のすべてが品種としての十月桜ではありません。
十月から開花する桜、という意味で十月桜と呼ばれていることもよくあります。
秋から冬に開花する桜にはよくあることですが、注意が必要です。
見分けるポイント
十月桜の特徴は、花びらは10~20枚程度の八重咲きで、独特のよじれがあるという点です。
八重咲きの秋咲きの桜としては、他に子福桜などもありますが、花びらに独特の”よじれ”がある秋咲きの桜はありあせん。
秋から冬に開花している桜の中でも、十月桜の識別は比較的容易です。
花色は単に淡紅色とされていますが、実際には白から濃いピンクまでが混じります。
一つの花に複数の色が混じっている点も、十月桜の特徴です。
“よじれ”も、白やピンクが入り混じる点も、十月桜の特徴であり、人気の秘密でもあります。
京都で十月桜を見られるスポット
以上のスポット以外でも、京都ではいろいろなところで十月桜を見ることができます。
秋や冬に開花している桜の半分は十月桜といってもよいくらいです。
秋冬咲きの桜② 冬桜(フユザクラ)
冬桜(フユザクラ)とは
冬桜は、白色で一重咲きの中輪の桜です。
野生種であるオオシマザクラ(大島桜)とマメザクラ(豆桜)の種間雑種と考えられています。
秋冬は中輪ですが、春には一回り大きな大輪の花が開花します。
葉が小さめのため、冬桜は別名、小葉桜(こばざくら)ともいわれます。
冬桜は、江戸時代から記録が残る古い品種です。
本当は異なる品種なのに、冬に開花している桜という意味で冬桜と呼ばれている場合があります。
“冬”桜と言いますが、春を除くと晩秋から初冬が最も花の多い時期です。
群馬県藤岡市の桜山公園、埼玉県児玉郡の城峰公園、名古屋市の庄内緑地公園などが全国的にも冬桜の名所として知られます。
その他、滋賀県坂田郡醒井村(現米原市)の居醒の清水(いざめのしみず)には、天然記念物にも指定されていた古木の「不断桜」がありました。
今は石碑が残るばかりですが、桜博士として知られる三好学(1862-1939)によると、品種としては冬桜であったとのことです。
見分けるポイント
冬桜は一重で白色です。桜としては、これといった特徴のない花を咲かせます。
他に秋咲きで花びらが5枚の桜として、四季桜があります。
冬桜と四季桜とを識別するには、花の裏側の萼筒(がくとう)を見る必要があります。
冬桜は萼筒の下部は膨らんでいません。
両種が並んでいたら区別がつきますが、冬桜(または四季桜)のみの場合にどちらかを識別するのは、やや難しいかもしれません。
萼筒以外では、花のサイズが冬桜の方がやや大ぶりという違いもあります。
別名である小葉桜の由来となった小さな葉も特徴ではありますが、開花期には葉が出ていなかったり、まだ若葉だったりするので、識別ポイントにはなりにくいです。
京都で冬桜を見られるスポット
- 京都府立植物園〈左京区〉
- 知恩院〈東山区〉
- 金戒光明寺(こんかいこうみょうじ)〈左京区〉
- 宇治市植物公園〈宇治市〉
- 車折神社(くるまざきじんじゃ)〈右京区〉
ただし、植物園以外では、冬桜とは表示されていません。
冬桜であろうと思われる推定を含みます。
秋冬咲きの桜③ 四季桜(シキザクラ)
四季桜(シキザクラ)とは
四季桜は、白色で一重咲きの中輪の桜です。
野生種であるマメザクラ(豆桜)とエドヒガン(江戸彼岸)の種間雑種と考えられています。
冬桜も四季桜と同じような花を咲かせますが、がく筒がつぼ型をしている点が異なります。
本当は異なる品種なのに、春夏秋冬の四季を通じて開花している桜という意味で四季桜と呼ばれている場合があります。
もっとも、四季のうち夏には開花しませんが。
京都府立植物園には、秋から冬に開花する桜を集めたコーナーがあり、秋から四季桜、十月桜、冬桜、アーコレード、不断桜、エレガンスみゆきが開花します。
これらの秋咲きの桜のなかでも、例年最も多くの花を咲かせるのがこの四季桜です。
秋に盛大に開花するのが四季桜の特徴といって良いのかはわかりませんが、少なくとも京都府立植物園では、もっとも秋冬に適応しているのが四季桜です。
赤山禅院に紅葉シーズンから開花している桜には、「寒桜」という看板が以前に立てられていましたが、品種としてはおそらく四季桜ではないかと思われます。
別に、園芸品種としてのカンザクラ(寒桜)はありますが、秋咲きではなく二月ごろから開花する桜なので、明らかに別物です。
見分けるポイント
冬桜と同じく、一重で白色の花を咲かせます。
冬桜と似ていますが、識別方法は前述のとおり、花の裏側の萼筒(がくとう)を見る必要があります。
萼筒の下部が膨らんでいるのが四季桜です。
この萼筒の形状は、ソメイヨシノを含むエドヒガンファミリーに共通する特徴です。
エドヒガンはこの特徴から、「ひょうたん桜」と呼ばれることもあります。
京都で四季桜を見られるスポット
- 京都府立植物園〈左京区〉
- 赤山禅院(寒桜)〈左京区〉
- 宇治市植物公園〈宇治市〉
四季桜かなあ?という桜は他にもありますが、あまり自信がありません。
秋冬咲きの桜④ 子福桜(コブクザクラ)
子福桜(コブクザクラ)とは
子福桜は、白色で八重咲きの小輪の桜です。
カラミザクラ(唐実桜)とコヒガン(小彼岸)あるいはエドヒガン(江戸彼岸)の交配種と考えられています。
コヒガンは、前述のとおりマメザクラ(豆桜)とエドヒガン(江戸彼岸)の種間雑種です。
雌しべが複数あるため、1つの花から2つ以上のサクランボができるのが、子福桜という名前の由来です。
雌しべが非常に目立つところは、カラミザクラの血を引く影響です。
カラミザクラは、別名をシナノミザクラ(支那実桜)、中国桜桃、暖地桜桃ともいいます。
中国では、3,000年以上前から、さくらんぼを食用に利用してきました。
ただし、今一般にさくらんぼとして流通しているのは、セイヨウミザクラ(西洋実桜)です。
実が小さく酸味が強いカラミザクラは、現代ではあまり食用としては流通されていません。
平野神社で「桃桜」と呼ばれているのは、このカラミザクラです。
カラミザクラを鑑賞用に植え、サクランボを自家用に消費することはよくあります。
見分けるポイント
子福桜は、花びらが20~50枚もある八重咲きの桜です。
数本ある雌しべが目立つ姿など、秋冬咲きの桜のなかでは、唯一カラミザクラの血を引いているため、識別は容易です。
花だけではなく、子福桜は樹形も特徴的な広卵形で、わかりやすい桜です。
他の桜と異なり、本当は別の品種なのに子福桜と名付けられていることはまずありません。
京都で小福桜を見られるスポット
- 京都府立植物園〈左京区〉
- 宇治市植物公園〈宇治市〉
- 二条公園〈上京区〉
- 伏見稲荷大社〈伏見区〉
- 東寺〈南区〉
- 車折神社(くるまざきじんじゃ)〈右京区〉
以上のスポット以外でも子福桜を見ることができます。
京都府内であれば、福知山市の三段池公園では、多くの子福桜が植えられています。
十月桜に次いでよく見かける秋冬咲きの桜です。
秋冬咲きの桜⑤ アーコレード
アーコレードとは
アーコレードは、淡紅色で半八重咲き大輪の桜です。
オオヤマザクラ(大山桜)とコヒガン(小彼岸)の交配種と考えられています。
コヒガンは、前述のとおりマメザクラ(豆桜)とエドヒガン(江戸彼岸)の種間雑種です。十月桜とほぼ同じともされます。
秋から冬に開花する桜は多数ありますが、中でもアーコレードはいち早く開花します。
京都府立植物園にある、秋冬咲きの桜を集めたコーナーでは、例年アーコレードから開花しはじめることが多いです。
とはいえ、開花はちらほらです。
アーコレードは、イギリスで作出され、日本へと帰ってきた珍しい桜です。
作出地のイギリスでは、アーコレードは春にしか開花しないそうです。
日本の気候では秋咲きになります。桜って不思議ですね。
春には、他の春に開花する桜に負けないくらい、たくさんの花を咲かせます。
見分けるポイント
秋から冬に開花する桜としては珍しい、大輪の見ごたえある花を咲かせます。
半八重咲きな点と淡紅色の花色は十月桜と似ていますが、花びらの1枚1枚がかなり大きい点が異なります。
大輪の花は、なかなか美しいです桜です。
京都でアーコレードを見られるスポット
- 宇治市植物公園〈宇治市〉
- 京都府立植物園〈左京区〉
- 神応寺〈八幡市〉
- 堀川中立売〈上京区〉
その他にも、あまり大きく育たないため庭木としても人気で、民家や公園等でも案外よく見かける秋咲きの桜です。
秋冬咲きの桜⑥ 不断桜(フダンザクラ)
不断桜(フダンザクラ)とは
不断桜は、白色で一重咲きの中輪の桜です。
野生種であるヤマザクラ(山桜)とオオシマザクラ(大島桜)の交配種と考えられています。
三重県鈴鹿市の子安観音に、樹齢600年とも言われる不断桜の原木があります。
原木は、「白子不断桜」として国の天然記念物に指定されています。
本当は異なる品種なのに、断えることなく開花している桜という意味で不断と呼ばれている場合があります。
代表的なのは、京都大原の実光院の「不断桜」ですが、ほとんどは固有名詞で品種としての不断桜ではありません。
前述のかつて天然記念物であった、滋賀県坂田郡醒井村(現米原市)の居醒の清水(いざめのしみず)の「不断桜」も、品種としては冬桜であったと言われています。
京都府立植物園には2018年に導入されました。
その年の冬には見事に開花し、「これがかの有名な不断桜か、すごいなあ」と思いましたが、2019年、2020年の花つきはイマイチでした。
その実力のほどは、まだはっきりしません。
見分けるポイント
不断桜は、ヤマザクラと同じように、花と同時に新芽も出てきます。
新芽の色も赤や茶色、緑など様々な色をしています。
京都で不断桜を見られるスポット
- 京都府立植物園〈左京区〉
今のところ、京都府立植物園以外で品種としての不断桜を見たことがありません。
おわりに
桜には、300種ともいわれる多彩な品種のあります。桜は、実に奥深い花です。
京都には多くの品種の桜があり、秋から冬に開花する桜もあちこちで見られます。
今回は十月桜、冬桜、四季桜、子福桜、不断桜、アーコレードの6種とプラスアルファを紹介しましたが、他にも秋から冬に開花する桜もあるようです。
紅葉シーズンに紅葉をバックに開花する桜や、花の少ない冬に開花する桜などがあちこちで見られます。
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