エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【400】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【400】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2021年8月1日号の掲載記事です。

本だけ眺めてくらしたい

中学三年の時の忘れられない思い出がある。
冬、校外学習でスケート場に行くという行事があった。学校の最寄り駅に集合したのだが、欠席者がとても多かった。
当日体調不良の生徒だけではなさそうだ。いつもつるんでいる生徒仲間が申し合わせたように来ていない。
スケートなんて、かったるい――「赤信号みんなで渡れば怖くない」と決行したのだろう。
先生は怒った。
「けしからん。これも大切な教育の一環だ。教室の机に座ってやるのだけが勉強じゃない。担当の先生が計画し、準備してくださったのに」。
でも、私は思った。
それは、きょう欠席した生徒に言うことであって、今ここにいる私たちではない。
なぜ、出席している私たちが、こんこんと説教を聞かされているのか、と(笑)。

テレビのニュースで、緊急事態宣言が発令中なのに繁華街の人出が多いからと、道行く人にインタビュー取材をしている映像をよく見る。
「人出は以前と変わらず多い。緊急事態宣言に慣れて、効き目がないんじゃないか。感染者がまた増えないか心配」と答えているが、この人も、緊急事態宣言が発令中なのに繁華街に来ていた人なのだから、聞く相手を間違っている(笑)。
もちろん、取材を受けている人は仕事などでしかたなくここに来た人なのだろうが、自分のことを棚にあげて、まるで他の人は不要不急の外出だと言わんばかりの“街の声”を毎度収録してきて放送する必要がテレビ局にあるのかしら。

新型コロナ関連の報道では、もう一つ、これってどうなの? と思う決まり文句がある。
「インドで確認された変異株のデルタ株」だ。
英国、南アフリカ、ブラジル、インドの各地で見つかった変異株をそれぞれアルファ、ベータ、ガンマ、デルタと呼ぶようにとWHOが今年5月末に提唱した。
汚名を着せた差別につながりかねないからと、国名を使わない新名称をつけたのに、毎度ニュースで「インドで確認された変異株のデルタ株」と言ったら、まったく意味ないじゃん。とほほ。
1984年、日本の性風俗店のトルコ風呂という名称は、トルコ共和国のイメージを損なっているとして、在日留学生が名称を変更してほしいと厚生大臣に直訴し話題になった。
まもなく、東京都特殊浴場協会が新しい名称を一般公募し、ソープランドに改称したという一件を思い出した。
当時、人気コピーライターの糸井重里が雑誌で「萬流コピー塾」を連載していた。
毎回、商品などのお題を決め、その広告コピー(惹句)を読者が考えハガキで応募するというもの。
今で言うバラエティ番組の大喜利のようなものだった。
その中で、トルコ風呂の新名称を考えるというお題があって、私が大笑いした作品があった。
それが「元トルコ」。もうひとつが「ルートコ」。
こいつら、まったく反省していない(笑)。

ふとしたことで、三十五年前に読んだ週刊誌の記事や、中学時代のある日の出来事を思い出す。
昨日の夕飯、何食べたか思い出せないのに。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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