自給自足の山里から【178】「日本の基層を見つめて」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【178】「日本の基層を見つめて」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2013年12月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

日本の基層を見つめて

お米、お米、おイモさん

晩秋の山村は、黄・赤の紅葉。日に日に色濃く、鮮やかさに身を置く幸せ。本来なら、フクシマの百姓の友も味わう。が、離村を強いられての悔しき怒りの「世直し」の思いに駆(は)せる、怒りの黄・赤の紅葉である。
寒さも厳しくなり、近くの氷の山では初雪。身も心も引き締まるが、冬に向けて、秋の実り―お米・お豆さん・おイモさんなどの収穫に追われ、今夏の猛暑で緩んだ身心は戸惑い、腰を痛める。
近くの針(しん)灸(きゅう)師さんの世話になる。阪神淡路大震災の時、ゲル(モンゴルの家)を建て、ボランティアで医療活動した人である。そのゲルが、我が農場に設けられ、客人に活用。
お米は、農場の10枚の棚田で、全く農薬・化学肥料使わず、機械で耕さず、年中水田んぼで生まれ育つ。イトミミズなど微生物からヘビ・カメ・サギなどまで循環する世界で、土はトロトロ層で手を入れると手首まですーっと入る。
種籾(もみ)を直(じか)にまいたり、成苗を田植えし、除草し、黄金色に輝くと、一株一株刈り、稲城(いなき)に天日干しする。すべて手作業である。
東京の百貨店で、同じ年中水田んぼの手作りの米が、「日本で一番高い米・とべ米」として、1㎏3000円!という。我があ~す米も、大阪の百貨店に並ぶか!(笑)

アジアの若者たち、あ~す農場へ

草の根の国際交流を30年近く続けているPHD協会(神戸)から、インドネシア・ビルマ(ミャンマー)・ネパールの若者3人と、日本のボランティアの若者3人が「研修」に来訪し、ゲルに泊まる。
日本の若者を尻目に、手際よい働きで、稲刈りし、稲城にかけていく。来日半年だというのに日常会話をこなし、日本語の便り(礼状)届く。
「あめのなかで、いねかりしました。はじめてです。でも、みなさんといっしょにはたらきます。たのしいです。ほんとうにありがとうございます」(モーママ、ミャンマー)。「こんにちは。私は、お父さんのところでべんきょうできてたのしかったです。いねかりとか、やまいもとってとか、おもしろかったです」(グリスアン、インドネシア)。「こんにちは。わたしは、おとうさんのいえで、ともだちといっしょにべんきょうして、たのしかったでした」(プレム・ラマ、ネパール)。
「初めてのこといっぱいで、とても貴重な体験できました。自然の中で、自分たちの力で生きる素敵さと大変さを感じました」(本田)。「これまで他の日本の農村をみたりしてきた中で、改めて、あ~す農場の子どもや、若者がたくさんいる環境はすばらしいと思いました」(石川)。
若者の手で、アジアに、日本に「第2、第3のあ~す農場を!」と期待したい。

熊、猪、ケンタ…三者三様

山村の秋の味覚・山イモ(自然(じねん)薯(じょ))掘りする。黄色い葉の太いつるを見つける「つる見の名人」の指導を受ける。
日本の若者を尻目に、道具を巧みに使って、なんと1mもの大物を掘り出す。
次の日の夕食は、サツマイモ・里イモらと共におイモづくし。ケンタ、げん家族、孫らにぎやかに食卓囲む。
畑では、お豆さん(大豆・黒豆など)がいる。
果樹園では、「熊が夜中に栗・柿の木に登って枝をボキボキと折って食べ、折った枝はお尻の下に敷いて、朝見ると、熊棚ができている。木の下では、落ちた実を猪が食べ、昼間はケンタさんが拾う。三者三様」と笑う好美である。

今、フクシマそして世界

「大森さん! フクシマで『奇形植物』が出ているよ!」と、あ~す米を受け取ってくれている神戸の前田さんから電話。
「花の中から花が咲くアジサイ、花がいくつもくっついた茎の太いタンポポ、茎の伸びないチューリップ、ナスはミニトマトぐらい、全く実のならないトウモロコシなど…」。他にもあるが、言葉が続かない。
「安倍は、大ウソつき。1000ものタンクに33万tもの汚染水が貯められているのが限界。溶けた核燃料を冷やすために、毎日400tの水注入、さらに地下水400tが流れ込み、毎日800tの汚染水。8月20日は、300t漏れる。広島原爆の半分の量が漏れた。世界に、地球に、とんでもない犯罪!」と怒りの声が、耳に響く。

縄文のビーナスに、心おどる

学生時代の寮の先輩の寺田さんから『縄文ビーナス』の写真と共に、便りが届く。
「実は、小生の田舎(滋賀県東近江市水源寺相谷(あいたに)町)の土地改良事業の過程で、平成22年5月に、1万3000年前の縄文時代の竪(たて)穴式住居跡5棟が発見され、その1つから、高さ3・1㎝、幅2・7㎝、重さ14・6gの土偶が発見される。頭部はありませんが、豊かな乳房を持った女性。朝日新聞(2010・6・1)の「天声人語」では「縄文のビーナス」と紹介。多産と豊じょうを祈ったシンボルだったろうと思わせる芸術性豊かな土偶。1万3000年前の人々が高い文化を持っていたことが想像できます」と、心おどる気持ちが伝わる。
我が、縄文百姓への”はげまし”に感謝!
都市をさらばし、縄文遺跡の出た山村のブラクの古老に学んでの、自給自足・縄文百姓の暮らしも30年を迎える。つくづく、この社会の基層に縄文が生きていると思う。

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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