エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【389】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2020年9月1日号の掲載記事です。
本だけ眺めて暮らしたい
音楽や映画が好きなので、YouTubeはかなり観ているほうだと思う。
米英で今流行っている曲のオフィシャルミュージックビデオをはじめ、古今東西有名無名の多様な表現者による動画を数珠つなぎでつい観てしまい、気づけば数時間経っていたなんてことも。
映画はビハインドシーン(撮影風景)や好きな映画の名場面集、昔の映画の予告編、俳優や監督のインタビューなど。なかには、映画本編をすべて観られるものもある。
一方、動画共有サービスというイメージから、YouTubeにはあまり興味がないという年配の読書好きもおられるかもしれない。が、実は、本や文学などに関する興味深い動画も無数にある。
例えば私が最も好きな作家ウィリアム・フォークナーの講演の様子やインタビュー、安部公房の対談、川端康成が出席した座談の映像など。
また、大手書店のジュンク堂は開催したイベントの動画をいくつも投稿していて、金井美恵子や保坂和志、磯﨑憲一郎などのトークが観られる。
飯田橋文学会は古井由吉や石牟礼道子のインタビュー、柴崎友香の自作朗読などを掲載。
光文社古典新訳文庫のチャンネルでは、プルースト「失われた時を求めて」を新訳した高遠弘美の解説などが愉しめる。
その他、西加奈子の自作朗読をアップしているのは筑摩書房。新潮社や講談社など出版各社が新刊PRのための関連動画を配信しているので要チェックだ。
さらに、今注目するなら、新型コロナウイルス感染拡大後の世界について語り合うSF作家によるリモート会議。新井素子や冲方丁ら五人が出席し、いとうせいこうが司会を務めている。
あるいは、こんな動画もある。
知る人ぞ知るアメリカの絵本作家、カリスマ的人気のエドワード・ゴーリー。彼の絵本が一枚ずつページをめくるように画面で読めるのだ。BGMもついている。
扉や奥付、解説などを別にすると、絵本の本編というのは少ない。例えば『うろんな客』(柴田元幸訳、河出書房新社)で二十九ページ。これが五分弱で全ページ読めるようになっている。
ちなみに「朗読」で検索すれば、動画ではなく音声のみで、小説(や小説以外のノンフィクションも含め様々な本)を朗読(ド素人やアマチュアによる)したものを聴くこともできる。
テレビやラジオ番組の転載も含め、YouTubeでこれら著作権についてどう処理されているのか、まったくわからないが。
MK新聞について
「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。
ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。
MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)