エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【379】|MK新聞連載記事

よみもの
エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【379】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2019年11月1日号の掲載記事です。

表紙

表紙

裏表紙

裏表紙

本だけ眺めて暮らしたい

高校時代の社会科のある先生の口癖が「自慢やないが」だった。毎授業、何度も口にした。
言うまでもなく「自慢やないが」は、これから自慢話が始まるというシグナルである。
ところで、インターネット上には自慢話が溢れている。というか、もはやネットは自慢話を披露するための仕組みそのものだと言ってもいい。
今回は、そんなネットで検索してもほとんど見当たらない珍しい古雑誌をご紹介しよう。自慢じゃなく。いやほんと。
誌名は『インタビュ』。
私の手元にあるのは創刊号。昭和二十三年二月十五日発行の二月号だ。B5判で本文三十二頁。二十五円。発行所はインタビュ社。編集・発行者は井戸川渉とある。
表紙は「秩父宮さま、しばらくでした」、裏表紙は「ジャズで涙をとばすママ・笠置シズコ」の見出しと、それぞれの人物写真をカラーで全面にあしらっている。共に「フォト・ドモンケン」とのクレジットあり。
土門拳は編集顧問にも名を連ねていて、他にも銭湯の女湯風景を撮影したルポルタージュ風ヌード写真を「特集グラビア」(文・田村泰次郎)として載せている。
仏像写真で有名なカメラマン土門と、小説『肉体の門』で知られる作家田村がコラボレーションした「女湯」。取材後記に「毎号継続の予定」とあり、これは是非観てみたいと思うが、実際に連載されたのか、そもそも雑誌の第二号が発行されたのかわからない。
記事の目玉は、秩父宮と笠置シズコのインタビューだが、他にも、人気喫茶店で一日三百杯のコーヒーをいれるサブちゃん、スタイルがよくなるユニーク美容体操を考案した産婦人科医、シャム皇帝の従妹である王女が結婚する無名の日本人など、いろんな“時の顔”の声を伝えている。
発行人は、「発刊の辞に代えて」という副題の記事の中で、インタビューする者は「短い時間の間に、ほんとの相手をキャッチする眼」が必要だと語っている。
私もかつて、数えきれないほどのインタビューをしたが、どれだけ経験を積んでも、相手が誰であれ、毎回「一本勝負」の緊張を感じて取材に挑んだことを思い出す。
正直言ってレベルの低い記事もある。が、ズバリ「インタビュ」を誌名に掲げた明確な個性の雑誌が敗戦間もない日本にあったことが興味深い。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

この記事が気に入ったらSNSでシェアしよう!

関連記事

まだ知らない京都に出会う、
特別な旅行体験をラインナップ

MKタクシーでは様々な京都旅コンテンツを
ご用意しています。