自給自足の山里から【149】「反面教師の日本」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【149】「反面教師の日本」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2011年7月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

反面教師の日本

うつぎが咲いたら田植え

今年、我が山村は、うつぎ(別名うのはな、空木)の白い花が、鐘状に咲き乱れ、壮観である。この四半世紀では、初めてのこと。つい「ひょっとしたら放射能に負けんで、子孫を残そうとしているのでは?」と思っていたら、ケンタ(32歳)から「鹿が食べんから、残ってはびこったのだ」と諭される。
さて、その「うつぎの花が咲いたら田植えの時期や」と古老に教わったが、咲き始めた6月8日から田植えを始める。
それにしても、移住した25年前には、19軒のうち13軒が田植えし、お年寄りから畦で腰おろして昔話を聞くことがでkいたもの。それが亡くなったり、離村したりで今9軒。それも60歳後半から90歳代の人たち。「棚田で手間かかり、鹿猪対策が大変。米つくるより買った方が安い」と。とうとう田植えする人は0軒になった。日本の農業の明日を先取りしている。
今、この村で米つくりしているのは、くまたろう農園(ケンタ・よしみ)、あさって農園工房(げん・りさ子)と、私と3人娘のあ~す農場の3軒である。

なんとか、子か孫が帰って百姓やることを願い期待してのこの25年の別の試みは、残念ながら、届かず実らなかった。
残った9軒は、もう子たち帰ってこないという「絶望」感は、深い。それだけ我が子、若者たちの責任・期待は大きい。が、ねたみ・反感もあることは事実である。

田植え体験に都会からやってくる

4月末から5月初めにかけて、昨年の種籾(代々自家採種)を大地におろし、植え頃の成苗(40日くらい)を植える。田んぼづくりが大事。鎌と鍬を使って、1枚1枚畦ぬり、代かきしていく。くまたろう農園のケンタが、と場でケガ(ムチウチ症)して、また、連れのよしみが8月出産をひかえ、6人の兄弟妹が協力しているが大変。そんな折、自給自足を志す船乗りの小島さんが、船降りての1ヵ月の休みを、私たちのために使ってくれた。感謝である。おかげさまで、23枚の田、1町歩は田植えを待つ姿になった。

今年も、都会から田植え体験志願の人たちが来訪。裸足で旅している力君(26歳)、かのマクドナルドでバイトしながら百姓志す尚君(28歳)、環境問題に取り組む名古屋の若者2人、T-CAでバングラディシュに行く香川の女性、神戸・大阪そしてネパールからも。十数人での田植えは楽しく壮観である。近在の人は「あんな多くの人をどうして集めたの?」と不思議がる。私はインターネットなどやらないので、ほとんど口コミである。

日本で学ぶのは反面教師!?

東京から関西・西宮に、幼い子連れてヒナンの若いカップルが「移住先を探している」とやってきた。不耕起の田畑・自然養鶏・バイオガス・水力発電など見て、「目からうろこが落ちる。素晴らしい場所を見つけたよう」と、田植えしていく。
ネパールから、草の根交流のPHD協会(神戸に本部)の「研修生」パッサン(20歳女性)がやってくる。結婚していて2歳の子を親らに預けての1年間。当初、キンチョウしていたが、1週間もすると、娘のちえ(25歳)、あい(21歳)らと打ちとけ、笑顔がみられほっとする。ちえは6月25日からネパールに行き、パッサンの家族と会う。
彼女は、鎌を手にしての草刈り、鍬さばきは見事。田植えも巧みである。見ていてほっとし、うれしくなる。
日本に行くというと心配されたという。「ネパールに、フクシマの放射能が飛んできている。隣の中国、インドに原発あり、心配」と幼い子を持つ母親の思いが伝わる。
「居候」の若者の鎌鍬さばきに苦笑いし、また、彼らの自己本位の相手を思いやらない言動に、あきれ、傷つき、「日本の若い男の人ダメ」と悲しむ。日本で学ぶのは、原発にしろ、反面教師のよう。

神戸から来た佐藤君は、ブユ(ブヨ・ブトともいう)に刺されて、目が腫れて、接客の仕事に悩む。かつて僧侶がやってきたが、半ズボンで田植えし、足がバンバンに腫れて、座れず仕事にならなかったという(笑)。

田植えは10日間続く。祭りである。
「大森さんちの田んぼは、幽玄の世界のように、神秘的美しさがありました」と大阪の教員の森田さんは言う。かつては、この谷間の地の村に、雲海のように農薬がまかれ、ホテルもおたまじゃくしも消えた。今、なんとかホテルの甘い光がみえ、カエルの大合唱が聞こえるようになった。
やがて、田打ち器での除草、田をはいずり回っての泥と汗にまみれての田草とりが始まる。我が不耕起の田は、生きとし生きるものたちが、それぞれなりにまわっての世界があり、その様子にすっぽり入っての仕事・労働・働きほど幸せはない。カネに依らない世界が地球を生かす。

槌田さんを囲んで

5月29・30日、若者の就労をポートしているNPOから11人来訪「研修」。同日に但馬野草食べる会も伝われ、あ~す農場に20余名宿泊する。
不耕起の田に入り、「うあ~、すげェ、オタマジャクシがうじゃうじゃ」と草刈り、畑仕事、薪割りしての五右衛門風呂、カマドでのご飯炊きなどする。
この若者たちの中から、百姓への就労は?
30日には10時から、ずーと脱原発社会に向けて実践されている槌田たかしさんの「お話を聞く会」をあ~す農場の広間で行う。
50人余の老若男女が集まり、夕方まで槌田さんを囲んで熱心に話し合う。間に、大森りさ子の紙芝居「ぼくのほしいもの」(百姓一家大森家で育つ7歳のつくしからみた原発日本の風景)と、沖縄に移住し百姓唄人を志すヤンチェンの唄を披露。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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