エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【326】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2015年6月1日号の掲載記事です。
本だけ眺めてくらしたい
「日本語は美しい」よいう類の書名を本屋で見かけると、どうも気になる。
「他の言語よりも美しいという意味?」「美しくない言語があるとでも?」と、からみたくなる。
揚げ足取りではない。
実際「他の言語を話す人が聞いても日本語の響きは耳に心地よい」「英語にはない日本語ならではの美しい表現」「〇〇に関してこんない多彩な言葉あるのは日本語だけ。繊細な感性から生まれた・・・」
などと優越的におっしゃる。
自らの美点を再確認するにはいいけれど、無粋な自画自賛に陥らないようにしたいものだ。
ところで、近頃のテレビでは「自画自賛」番組がやたらと増えているように感じる。
「ニッポンのここがスゴイ!」という類の。
番組の基本は、外国人が日本の伝統文化から最近技術まで、様々な物事を賞賛するというもの。
日本のことが”好きすぎる””ユニークな外国人”が登場したり、日本に興味があるのは今や一部のマニアックな外国人だけではないことを実感させるような、観光客の街頭取材をしてみたり。
もちろん、番組を企画し、制作・放送しているのは日本のテレビ局なので、ようするに自画自賛である。
しかも、日本人が自ら設え「他讃」の体でやっているところが、何とも気恥ずかしい。
外国人にホメられるのが昔から大好きな日本人ではあるが、この手の番組が氾濫しているという状況は、今、景気面で回復しつつあるとはいえ、日本人が希望や意欲をなかなか持てないでいることの裏返しではないかと心配になってくる。
いや逆に自信を取り戻しつつある日本人が妙な自意識から、自らをさらに鼓舞しようとするドーピング現象なのか。
自画自賛番組が「日本は素晴らしい」と合唱する一方で、ワイドショーまでもが政治的でネガティブな海外ニュースを盛んに取り上げている。
「世界には好戦的で非道な人たちがいる」とか「私たち日本人のやることにいちいち文句をつけてくる人たちがいる」といったイメージを日々積み重ねるように。
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)