山の一家*葉根舎「葉根たより」【42】|MK新聞連載記事

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山の一家*葉根舎「葉根たより」【42】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、山の一家*葉根舎(はねや)の「葉根たより」とその前身記事を1998年12月16日から連載しています。
MK新聞2020年6月1日号の掲載記事です。

大森梨沙子さんの執筆です。

葉根たより

満ちてゆく新緑、早朝の鳥たちの響き合うさえずり、いのちの息吹をのせて吹き抜ける風。
「蛙始鳴(かわずはじめてなく)」「蚯蚓出(みみずいずる)」
カエルが鳴き始め、ミミズが地上に出てくる頃。立夏を迎え、眩しい季節です。
心身が縮こまるようなニュースが多いけれど、季節はのびやかな時期であってよかったと感じます。

 

<山々の合唱>

八十八夜を過ぎ、いよいよ田植えの準備に忙しくなってきました。
芽出しした種籾を苗箱へ播き、整えておいた苗代へ並べ、シートをかけ、いよいよ田んぼの畔切りです。山の中の田はいろんな形をしていて、小さめの田がたくさんあるので、畔がいっぱい! 畔切りが始まるとずっと腕の疲れが取れなくなります。そして、畔切りを終えたら、荒起こしをし、畔周りの田を練り、よい固さになったら長い長い畦塗りです。
畦塗りの時期が、一番早起きになる忙しい時です。でも、大変だけど楽しい。どんどん色づく山々の波に乗って、ぐんぐん身体を動かす。鳥や虫たちの声も賑やかで花々も色とりどり。いのちの活気に満ち溢れています。

 

<皐月の風と舞うように>

休校の続く子供たち。街の子供たちは大変だと思います。みんな工夫をして、楽しく暮らせているでしょうか。
わが家の子供たちは、家の周りに民家がないのでのびのびと過ごしています。でも、この時間をどう過ごすか、親は悩むところです。勉強は宿題しかする気がないようなので、やっぱり家事や農作業のお手伝い。いつもの風呂炊き、薪割り、薪運び、洗濯物はもちろん、おやつ作りも自分たちで。かまどの残り火でパンケーキ、ドーナツ、よもぎ団子などを作れるようになりました。
田畑では、最近鹿が今まで上がらなかったような川から、2.5mの高さを登り入ってきたので、蔓延(はびこ)っていた蔓や草を刈り、電柵張り。田の数年していなかった水路の掃除をし、たくさん泥をかき出したり、人手がないとできないことを、ここぞとばかりに頑張ってもらいました。
でも、お手伝いが楽しくできるよう、大変な思い出ではなく充実した思い出になるよう、あまり長時間はせず、ご褒美をあげたりしているので、子供たちも気持ちよく動いてくれます。
げんは子供の頃、きつい仕事を毎日していたので、その辺りの見極めが上手で助かります。

 

<あしもとを作る>

そんなよく動く子供たち、もちろんよく食べます。夏休みは長期お休みでも、料理をしやすい夏野菜がたくさんありますが、この時期は一番お野菜の少ない季節。毎日の献立に悩みますが、ぐんぐん出る野草、三つ葉、フキ、セリ、アサツキ、ノビル、ユキノシタ、アザミなどや、切り干し大根など保存しておいたものに助けられています。
そして、勉強は最低限しかしませんが、本をよく読むようになりました。長男つくしと次男すぎなが長編ファンタジー小説にはまり、甘えん坊三男かやはお兄ちゃんが本に夢中で「つまんない!」と言っていましたが、かやもエルマーのぼうけんを読み、読みだすと他のものも読むようになってきました。
子供の興味が赴くままに、心身共に成長していけるこの期間、なかなかいい時間に感じています。いつかこの事態が落ち着く時、元の日常を求めるのではなく、本当に望む日常、社会に近づけるよう、それはどんなものなのか、今一度見つめ直し、「今」をしっかり過ごしていきたいと思います。

 

<からだのーと>

立春から八十八日目の八十八夜。この日を過ぎれば遅霜もなくなり、気候は安定してきます。立夏を迎えれば春の土用が終わり、草木と共に私たちの身体ものびやかになる季節。
八十八が組み合わさってできている「米」という字。お米を作るには、八十八の手間がかかるから、とも言われているそうです。末広がりに、大自然のエネルギーに満たされる縁起の良い「八」。お米作りに一番忙しい時期の今、感謝と共に季節の恵み、よもぎ、ふき、筍などとじっくり味わいましょう。

 

<お知らせ>

京都府綾部市のギャラリーカフェ日々にて、五月に開催予定でした個展「風 またたく」は六月十九日から七月七日へ延期となりました。
今月号の「田舎暮らしの本」にわが家が四ページ紹介されています。よかったらご覧になってみて下さい。

(2020年5月10日記)

 

葉根舎について

haneya8011@gmail.com
HP:https://www.yamano-haneya.com

 

 

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「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

 

葉根たよりのバックナンバー

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