フットハットがゆく【198】「過熱区」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2010年6月1日号の掲載記事です。
過熱区
『B-TRIBE TV』という、ストリートダンス番組を今年から制作しています。
毎週木曜、夜12時からKBS京都テレビで、大阪や滋賀も映りますのでぜひ見てください!
最近、私用で週に何回か京都から大阪に通わなければならなくなり、移動に阪急電車を使っています。
遅い時間になると、電車の本数も減り、駅での乗り換え待ち時間も長くなります。
皆さんは、駅で電車を待っている時など、何をしますか? 普通なら本を読んだり、携帯でメールを打ったり、iPhoneでWebページを見たりもするのですが、テレビの編集で一日15時間くらいパソコンを見つめた後などは、もう目を使いたくないので、ぼ〜っと考えごとをします。
ふっと、プラットフォームの足下を見ると、等間隔に『3ドア車両 乗車位置』という文字が描かれています。
『乗車位置』というその位置に、電車の扉がピタリと止まるのです。
待っている客は、みなその文字の所に並びます。そしてその字を踏みつけて、電車に乗ります。
降りてくる人も踏みます。踏まれて・・・、踏まれて・・・、踏まれて・・・、踏まれて・・・、くすんで・・・、汚れて・・・、はげて・・・、消えて行く・・・。
そんな『乗車位置』の文字を見ていて思いました。
言葉には霊が宿り、『言霊』というそうですが、文字にも霊は宿るのでしょうか?
もし生まれ変わって何かの文字になるとしても、プラットフォームの『乗車位置』の文字は嫌です。
踏まれに踏まれる、人生ならぬ文字生。
乗る場所を教えてくれて本当にありがとう!・・・と、誰かに感謝されることも、そうはないでしょうし。
例えば文字として生を受けるなら皆さんはどんなのがいいですか?
去年の大河ドラマで登場した、直江兼続の兜の上に乗る『愛』の一文字なんかいいですねぇ。
歴史的文化財と皆から崇められ、芸術だ、ロマンだと褒めたたえられます。
あと、清水寺で書かれる『今年の漢字』なんかもいいですね。
書かれる(生まれる)瞬間からテレビで中継され、全国区のニュースになって皆に知られますし、有名人(文字)です。
まぁ、この辺の文字は、生まれ変わったらなりたい文字の取り合い過熱区でしょうね。
まぁ、あんな字がいいな、とか、こんな字がいいなとか考えながら、またプラットフォームに目を戻しますと、同じ『乗車位置』でも、ピンク色の追加文字で『女性専用車両』と、描いてある所もありました。
その車両はいわずと知れた女性のみが乗れる車両なので、あらかじめ乗車位置のところに注意書きが足されているのです。
同じ、乗車位置の文字に生まれるにしても、女性専用車両の方なら少し許せますね。
なんせその文字をまたぐのは終日女性ばかりですから、ミニスカートの美女なんかもいたりして、嬉しい景色を毎日拝めると思うと少しワクワクします。
でもハイヒールで踏まれると強烈に痛そうなので、そこは辛い所ですね。
というような、しようもないことを考えながら、電車を待っていたりする今日この頃です。
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