フットハットがゆく【144】「遺屍から恋も」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2007年11月1日号の掲載記事です。
遺屍から恋も
近代に広がる伝説の一種、『都市伝説』というものが流行っている。
今回は京都の都市伝説を一つ挙げて、それを検証してみる。
『鴨川の三条河原でデートしたカップルはうまくいく…』
という噂が京都にはある。
カップルが等間隔に並んで座ることで有名な、あの河原である。
さらに、「三条河原デートの後は、肉体関係を持つ確率が高い」という。
いったいなぜなのか?
人の性的欲求が高まる場合には様々な要因があるが、その中の一つに「自分に死期が迫っていると感じ精神不安定になった場合…」というものがある。
明日は決戦という武士や、出兵前日の兵隊さんなどは、妻や恋人に対し異様に性欲が高まったという。
いわゆる生殖本能で、自分が死んでも子孫は残したいというオスの本能であり、女もそれを感じ取って受け入れるのである。
飛行機に乗る前はエッチな気分になる、とよく聞くが、これも似た心理である。
三条河原にいると、意識にはなくてもどこか不安な気持ちになる。
…これには京都の深い歴史が関わっている。
そう、三条河原はその昔、処刑場だったのだ。
石川五右衛門の釜茹での刑をはじめ、何人もの罪人がここで磔(はりつけ)や斬首刑となり、その首や遺骸がさらされた。
ここでの処刑は『見せしめ』の意味合いが強かったため、より残酷な処刑法が取られ、まさに阿鼻叫喚(あびきようかん)の三条の惨状、絶望の景色であった。
やがて明治になり元処刑場は物好きなカップルが恐いもの見たさで訪れる、お化け屋敷的スポットとなった。
現在は、そこが心霊スポットだったことを知らないカップルばかりであるが、当然、死者の怨念と亡霊はいまだそこに渦巻いている
…そんなところに長時間いると、知らず知らずのうちに不安に駆られ、自分の身に危険が迫っているかのような錯覚に陥る。
と同時に、本能的に性的意欲も高まってくるのである。
恋愛には『吊り橋効果』という心理作用もある。
カップルで高い吊り橋を渡るとしよう。
その恐怖心から鼓動はドキドキ、精神的に昂(たかぶ)る。そしてそのドキドキを、ともに橋を渡った相手へのトキメキドキドキと勘違いしてしまうのである。
三条河原ではその吊り橋効果も存分に期待できる。
カップルの脈拍は正常値よりも必ず上がる。
その原因はあの等間隔の隙間に、青白い顔の幽霊が座っていて、本能的にそれを察知しているからである。
しかしはっきりとは気づかず、高まる鼓動と緊張感を、相手への恋愛感情だと勘違いしてしまうのだ…。
これらの目に見えぬ原因により、三条河原のカップルは深い恋愛に陥っていくのである…。
遺された屍や怨念から、恋心が芽生えるというのも嫌みな話ではあるが…
さて実は、三条河原都市伝説の心霊心理による恋愛説は、史実を元にした僕の創作である。
だいたい都市伝説というものはこういう『付け足された嘘』の部分が多いのである。
実際に三条河原のカップルはうまくいくことが多い、とはよく聞くが、お金を使わなくても純粋に2人でいることを楽しめるカップルだからこそうまくいく、というのが単純な真相だろう…。
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