フットハットがゆく【125】「末端」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2007年1月16日号の掲載記事です。
末端
今回は『末端』について書く。
なぜいきなり末端かというと、現在僕がかかっている病気からの発想による。
前回も紹介したように、僕の左目は神経の障害で眼球が動かなくなっている。
この病気にかかると、ものが全てふたつに見えてしまい、必然的に眼帯生活を余儀なくされる。
過労とストレスによる『末梢血管』の収縮が神経障害の原因であった。
『末梢血管』とはずばり血管の末端のことで、そこが縮んでしまうと酸素や栄養が神経に行かなくなり、障害を引き起こす。
ちなみに、もし心臓や脳の末梢血管に障害が出たら、これは死に至る。
僕は今37歳だが、40歳前後の働き盛りで昨日まで元気に仕事をしていた人が、突然過労死してしまうのも、これが原因である場合が多いと聞いた。
末端といって馬鹿にしてはいけない。
非常に大事なのだ。
さて、僕を過労に追いやったお仕事の方だが、これも僕のポジションは末端である。
僕は映像を作る仕事に携わっている。
京都ローカルでケーブルテレビの番組やビデオを作っている。
ビデオカメラで撮影し編集もする。
僕の上にはプロデューサーやクライアントといった格好いい名前の偉いさんたちがおり、彼らが「納品日を早めてくれ」といったら、徹夜してでも早めなくてはならない。
「予算をおさえてくれ」といわれれば、自分の生活費を削ってでもおさえなければならない。
上の方が「楽してもうけよう」と思った分、下の方に負担がかかるのが社会の構図だ。
また、上の方で未解決の問題を残したまま、下の方に仕事を放り投げてくる人もいる。
そんなこんなで末端に負担がかかり、結局僕は病気になった。
社会が破綻するのも、人体が破綻するのも成り行きはよく似ている気がする。
そんな僕が今飼っている生物が、生態系の末端、『メダカ』である。
去年の11月に実家から5匹もらってきて、それ以来すっかりハマっている。
水槽も熱帯魚を飼うかのように装備しキレイにしている。
メダカというのはボーッと見ていればただの小魚だが、じっくり見ると黄金色でとても美しい。
いってみれば、線香花火のような感覚である。
派手さは皆無だが、じっくりみればこれほど美しく可憐で慎み深いものはない…それが線香花火でありメダカである。
そんなメダカであるが熱帯魚屋に行くとだいたい1匹20円足らずで売られている。
なぜそんなに安いかというと、他の魚の餌として売られているからである。
メダカは魚類の生態系、食物連鎖の末端にいるので、他の生物の食料として扱われているのだ。
末端だからしようがないとはいえ、この扱いは辛い。
さて、昔貧乏で社会の末端におり、今業界のトップに躍り出たといえば、お笑いコンビ『ダウンタウン』の松っちゃんこと松本人志である。
僕も末端を抜け出して松っちゃんみたいに出世したい!と思うことしばしばだが、もうええ歳やし、あせってまたストレスをためてもいけないので、ぼ~っとメダカを眺めて気持ちを癒すことにしている今日この頃…。
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