自給自足の山里から【190】「“虹”見と口コミの居候」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【190】「“虹”見と口コミの居候」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2014年12月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

“虹”見と口コミの居候

虹と落ち葉

山村の晩秋は、樹々・草々の葉が、黄・赤色に色づき、ひと時の微笑み、鮮やかさを描き、心和む。
やがて、パラパラと風の音とともに散り舞う姿は、さみしくもうれしい。大地に帰りゆく落ち葉たち。積もった落ち葉の上をそっと歩くと、ザクッザクッと足に心地よい。
葉たちは、大地・太陽から生まれ育ち、大地・太陽のもとに帰りゆく。再生への循環には、澄みきった秋の夜空のお月さんも微笑む。感動である。
それにしても移り変わりやすい秋の天気である。秋の天高く見ゆる青空に、吸い込まれるように見とれて、見守られながら、お米・お豆さん・サツマイモ・ニンジン・大根・サトイモなどのとり入れに精を出していると、さーっと黒い雲が出てきて、雨が降る。一休みする。雨がすーっとあがる。
さて、作業再開、と腰を上げると、“あっ! 虹だぁ”と思わず、叫びたたずむ。
山間に、山から山に架かる橋のように、半円の天然の赤・紫たちの姿は、圧倒される。
日本の源である山村の再生を願う、孤立しつつもささやかに若者たちに受け伝えられんとする縄文百姓への励ましである。感謝!
晩秋の地球からの“おみやげ”に、早速、月見ならぬ虹見で、一瞬ながらも一杯頂き、味わう幸せ。
「なんだかんだと言って、お酒飲んでばかり」と叱られて(笑)。

口コミで来訪の百姓体験居候

ひょっこり、大阪から「1週間自給自足の百姓体験させてください」と、女性(30代)がやってくる。京都の綾部で百姓をやっている知り合いから聞いたという。口コミである。
今まで事務関係の仕事をしてきて、ほとんど大地に触れたことがないという。
さて、どうしたものか?とにかく、私とともに、体を、手足を動かすことにする。
丁度、稲刈り時で、田んぼに入り、「ザクッザクッと切れる音がするように」と、見本を示す。隣から音が聞こえず、腰下ろしへたり込み姿勢である。
「鎌は、引いて切るもの。たたいたらダメ。腰は上げて」と、手取り足取り教える。
稲を刈り、束ね、稲城(いなき)に架け、脱穀し、わらを切って田んぼに返すまで、一応体験する。
鎌を研いで、田んぼの水が貯えられるよう畦(あぜ)草刈り、モグラの穴ふさぐなど、不耕起水田を勉強する。
不耕起の畑で、指で穴を空けて玉ネギの苗植えし、もみがらを苗周りにまく作業行う。
ニワトリのエサ作り、エサやり、卵採り。小屋にケモノが入らないように、ノコギリ・かなづち使っての修理なども体験す。
山に入って、輪切りした木を、斧(よき)で割り、背負子(しょいこ)で家まで運ぶことも体験する。

朝ドラ「マッサン」のエリーのように

食事は自分で薪を割って、カマドに火をつけ、お米を炊き、畑から野菜・トリ小屋から卵を採ってきて料理するようにする。
ご飯炊きは、まずお米の水加減を実感させ、教え、炊き方は「はじめチョロチョロなかパッパ」と懸命である。「失敗は成功の元」と任せ、口も手も出さない。
NHKの朝ドラ「マッサン」のエリーのように、初めて、釜の中で輝く炊けたお米・ご飯に、うれしく感動の表情が忘れられない(笑)。
おかずは、「私、料理上手くない」というが、「採りたての野菜・卵だから、調味料もあまり使わず、また、火もあまり加えず、簡単にやったらいい」と言うと、「それなら、なんとか」と挑戦する。「やはり、採りたてのものはおいしい」とうれしそう。
一日の疲れをとる五右衛門風呂に水を入れて、風呂炊きである。これまた、なかなか火が着かず、悪戦苦闘している。私の指導よく、なんとか火が着き、風呂炊きできるようになる。炊き口から、赤く燃える炎にじーっと見とれている。
1週間は、あっという間に過ぎる。
後半では、自主的に、朝起きるとニワトリ・アヒル・アイガモのエサやりし、田んぼに水が入っているかどうかも見回りする。そのあと、私と見回り、モグラの穴を見過ごしたりしているのに気づき、たかが見回りも大変と知る。
「お父さんの若い時に比べて、今の働きは半分くらいやから、今の人は楽や」(笑)と子どもたちは言う。「ほんと!?」とけげんな表情の彼女である。
何もかも初めてのことであったが、1週間ということもあり、よく頑張った。

今後は自給自足を目指す

「1週間、本当に、色々とありがとうございました。この短い間で学ぶことは、ほんの一部に過ぎないと思いますが、たくさんの体験をさせていただき、とても勉強になりました。
今後は、自給自足を目指したい。何かの際には、相談にのってください」と、「来訪者ノート」に記す。
数日後、「お疲れさん」と石窯で焼いた天然酵母パンと、採りたての野菜たちを送る。
「疲れは出てないのですが、体が痛いです。筋肉痛ではなく、腱(けん)鞘(しょう)炎とか、いためてしまった感じです。少し休めます(笑)」と便り届く。

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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