自給自足の山里から【157】|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【157】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2012年3月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

福島の方が影響大きい

毎日毎日、雪が降り続き、山村はすっぽりと白いものに覆われる。
隣の豊岡市但東町の牛舎が崩壊し、牛が死ぬ。雪おろししていた人が、ケガしたり死んでいる。
他人ごとではない。母屋・パン焼き小屋・鶏豚山羊小屋の崩壊が心配になり、雪おろし・雪かきにおわれ、台所の屋根から滑り落ちる。幸いケガしなかった。用心用心である。

大雪のなか、早くも福島原発爆発事故から1年を迎える。今なお、再び爆発を防ぐ作業続く。
「ヒロシマでは、原爆投下の後、黒い雨が降ったというが、フクシマで黒い雪が降るなんてことにならないことを願う」なんて、ヒロシマの恐怖がフクシマで加重するようなことを友人は言う。今も放射能は、大気に海に放出されている。
10万もの人々が、むら・まちをおわれ、100万余の人々が被曝。
今、日本で汚染されていない食べ物を手に入れるのは、ごく一部の人に限られる状況である。

見えない、感じさせない放射性物質を、呼吸・食べ物らで取り込んだ内部被曝では、体内で放射線を1日24時間出し続け、細胞や身体を貫いて遺伝子を壊し、色んな病気をもたらす。幼いほど影響を受けやすい。「それ以下なら大丈夫」などという基準は通用しない。
「3日付の英誌インディペンデントは、福島原発事故による環境への影響を調べている日米デンマークの研究チームは、チェルノブイリと共通する14種類の鳥について分析。
福島の方が、生息数への影響大きく、寿命が短くなったり、オスの生殖能力が低下し出したりしていることが確認されたほか、脳の小さい個体が発見された。
このほか、DNAの変異の割合が上昇、昆虫の生存期間が大きく減少している」(共同)とのニュースが友人から送られてくる。
私は、この30余年(人類史上では一瞬)日本列島の背骨にある山村が朽ちていく有様を痛く体験している。今、フクシマでは、一瞬にして何世代に渡って人が住めない、立ち入れないで廃墟となっていく様に、気が滅入り、打ちのめされている。

 

ウラン鉱山を聖山として

23年に及ぶゲリラ戦を経て独立10年の東ティモールの人たちの生き方、戦争の仕組みを伝える感動の映画『カンタ! ティモール』(全国で自主上映)の監督のナツコさんから「東ティモールに行ってきて、ウラン採掘に反対するオーストラリアの人たちにも会ってきました。都市の暮らしが世界中の至る所で被爆者を生み出し続けていることを改めて痛感しました。『ウラン鉱山を聖山として、そこで儀式を行い、神からビジョンを得るアボリジニら先住民には、ウランを含む特別な地脈が、どうしても重要なのだ。掘り起こして運ばれては困る。リスペクトを持って向き合う石なのだ』というお話は印象的でした。

思えば、岩くらをまつり、声なき声を聞いて、生き物らと調和してきた日本列島の先祖たちにも通じる話です。百のかばねで豊に季節を送る縄文百姓ですね。
今、形あるものも(バーチャルな経済も)次々と崩壊して、山ではその時、昌也さんたちが『やっと来たか、遅かったなあ。待っとったぞ』と笑っていて、そこにはホタルも飛んで、草花も元気な、そこに人々が帰っていけるような、そんなことを想像しております。
痛みを伴う回り道もあったけど、帰ってきてくれて良かったという未来が来ますように・・・」。
「『先に歩くものは、常に露に濡れます』と、アイヌの萓野茂さんがおっしゃっていましたが、昌也さんが露に当たりながらも長年かけて証明してきた『豊かさ』が、今、こんなにも心強いです。まかれた種が、これからどんどん実をつけますように」と嬉しい便りが届く。

 

もう逃げなくてもいいようにしたい

あい(22歳)が、「循環可能なエネルギーを生み出す有機農業シンポ」で“話”をする。
「父が28年前、都会から山村へ。私はそこで生まれる。小学生の頃、自分の生活がまわりと違うことに気がつき考えた。
私の暮らしは百姓。朝起きて、鶏山羊豚らにエサやり、火を使い、田をおこし、種をまき、自分の食べるものは自分ちでつくる。肉食べる時は、自分の手で絞める。エネルギーはできるだけ自分ちでつくる。水力発電の維持には大変労力がかかる。デンキって金で買えるもんじゃない。
友達の暮らしは、朝起きて、ご飯食べて、学校に行って、遊んだり学んだりで、仕事しないのにびっくりした。汗を流すことが大切。

福島原発事故の時、福島の知り合いに『すぐヒナンを』と電話する。幼い子連れて3家族がヒナンしてきた。
4歳の女の子は、テレビで福島原発を見て『お母さん、怖いのこっちに来る』と泣き出した。母は『だいじょぶ』と。やがて徳島へ。まだ雪が降っていた。
8月に、福島から10人の子どもと母が来た。夏の一時ヒナンということで。子どもの口から出る言葉は『ここは放射能少ないでしょう。いいなあ』。女の子3人の母は、寝顔を見ながら『この子たちは、結婚差別されるんだろうなあ。希望がみえない』と呟く。
それでも、子どもは自分から生きようとしているように感じる。5歳の男の子は『ボク、これ食べる。これ食べたら放射能にいいのでしょう』。この小さな身体で、どうしてそんなに強いの。帰り際にお母さんは、『希望を感じる』と言っていた。
9月に放射能逃れて3人家族がやってきた。むらに家族が増えた。もう、どこにも逃げないでいいようにしたい」と。

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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