自給自足の山里から【110】「日本に居る気がしない」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【110】「日本に居る気がしない」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2008年2月16日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

日本に居る気がしない

「お前みたいに、水仙ひとつよう花咲かせられん者が、百姓なんかできるもんか」と母親。「やる前から文句ばかり。やるというたらやるんや」とちかし君(31)。
ここ山村の正月は、田畑まっ白の銀世界。そんななか、島根から両親と一緒にやってきた。彼は、船乗りしていて、船が神戸に寄ると、我が農場を訪ねていた。昨年暮れ、「12月21日で11年乗っていた船を降りました。島根の山村で、あ~す農場を目指します」と電話が入る。
一人息子が心配な親心が、ヒシヒシと伝わる。私は、「実は、二十余年前、お金も経験も知恵も地縁もないこの地で百姓はじめた。親や友人から“お前には無理や、やめとけ”と言われた。しかし、“百姓への思い”が強く、移住。苦労したが、村のお年寄りや、自然の恵みによって、六人の子どもも元気に育つ」と自分の経験を話し、本(注①)を読んでもらったり、ビデオ(注②)を観てもらった。
翌日は、農場を「体験居候」の河野君(昨八月に来訪し、手も動かないひどいアトピーが一ヵ月で完治)の丁寧な説明の案内で、“お金によらないで、可能な限り循環する農”の実際の様子を見てもらう。あい(18)らとも話をする。
帰り際に、お母さんは「20年前に出会っていたら、私らも百姓やっていた。その頃田舎の島根に都会から帰った。けど、すぐまた大阪に出る。お金お金に気を遣って生きてきた。改めて、お金に気遣わず、お天道さんに気遣っていけばいいことが分かった。春には、ゆっくり来ます」とおっしゃる。ちかし君は、「親を連れてきて正解だった」と感想もらす。

前後して、鳥取から、裕子さん(24)が、友人とヒッチハイクで来訪。「春から古民家に住み、百姓やります」とさわやかに言う。四季折々やってきて子どもたちと親しい。
また、昨正月来て、ケンタ(28)、げん(25)と炭やき体験した恵さん(26)から「あ~す農場に行ってから、山村で暮らすと決め、ようやく昨十一月に、岩手の古民家を買い移住。彼は、山仕事を“天職だ”と張り切っています」と年賀状が届く。

我が農場には、年に三百人近い人が「百姓体験居候」する。半日から半年以上の人も、五十~六十代もいるが、八割がたは若者。女性の方が多い。フリーター、アルバイト、ハケン、学生がほとんどで正規の職の者はごくわずか。
農場には、来訪者の「感想ノート」がある。その中から一部紹介すると、「やりたい仕事もなく、会社のため、利益のために働く自信がない。日々環境破壊がすすみ、どんどん便利になっていく今の世の中にも違和感。自給自足の生活も選択肢のひとつ。たくましい皆さんの生活を体験してみたい」(草史)等言う人が少なからずいる。
彼は「土をいじっているだけでも何か新鮮で、地球と会話しているようでいい心地でした。これからの人生でこの五日間(二十日間の予定が、体力気力の都合で??)は必ず役に立つと思います」と感想をもらす。
「正直、タクシー降りて、びっくり仰天! “ここ、ここに人が住んでいるん?目の前にひろがる景色にア然」(史滋)。はじめてやってきた青年の大方の感想。
ネパールの人は「ここ、国の村と同じ」と言う。五十~六十代の者は「私ら幼い頃はこうだった」とおっしゃる。その彼は、「五日間いて、ものすごく魂をゆさぶられました」と記す。

また、「何もかも初めてのことばかりで、自分の普段の生活を改めて見直しみつめることが出来ました」(隆也)、
「自分の価値観に、あれっと思わされる出来事の連続でした」(大輔)、
「これほど、えっ、ひゃ~、すごーいなどなど使った日々は、今までなかった」(顕大)、
「色々な面でショック。日本に居る気がしないと初め感じました。でも六日間経って、今の日本人は昔の暮らしの良さや大切さを忘れているのだと思います」(さやか)、
「土にふれることがこんなに心に安らぎをもたらすとは知りませんでした」(舞)等の感想。

我が農場では、自分たちの食べ物、燃料、電気は自給。鎌・鍬で田んぼ、畑、ニワトリ、豚、バイオ、水力発電の世話をし、いただく。時には、トリを葬って生命いただく。薪を割り、バイオに糞を投入し、カマドで料理。食事は、家族みんなで食卓を囲む。家畜のエサも、草刈りし落葉を拾いつくる。ケイタイ通じず、電話か手紙。
考えてみれば今の日本・都会社会では、想像できない。「面白い生活されていますね」との年賀は、東京で大学教員の英佑さん。
ショックや驚きや魂のゆさぶりらが忘れられず(??)、再び来訪したり、他の農場を訪ねたりする。そんななかで、実際に山村に入り、百姓はじめる者が出てきている。
「大森さんちで居候した人らから年に三人も百姓始める者が出るなんてすごい! 農高や環境大学出ても百姓なるのはほとんどいない。莫大な金使って!」と近くの耕さんは驚くやら嘆くやら。
金といえば、「宿泊代も食事代も、さらには駅までの車代もとらない。普通の常識なさにはあきれる」(ますみ)と言われた。よく、「いくら仕事手伝ってもらっているからといっても、ほとんど役に立たんやろ。金にならんやろ」「そんなに人が来るんなら民宿やったら、お金になるよ」と言われる。
近くで「農村体験館」をやっている人は「都会から来た人は、ただただ“空気がうまい”“食事がおいしい”と口をパクパクさせるだけ」とにが笑い。
百姓は未来のため働く。金にならないから価値がある。環境アシスト設立したサッカー日本代表岡田監督は「子どもたちに何を残すのか。今(電気)使うため、一万年もなくならない放射性廃棄物残すのとは違う」と言う。縄文の神・魂に通じる。
考古学を学ぶちかし君の姉さんは、「百姓は最も神に近い仕事」と言って、ギリシャに旅立つ。

注①:「自給自足の山里から」(北斗出版)、「六人の子どもと山村に生きる」(麦秋社)
注②:ノンフィクション「我ら百姓家族」①~⑤(フジテレビ)

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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