自給自足の山里から【119】「村にアンデスの風が」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2008年11月16日号の掲載記事です。
大森れいさん(19歳)の執筆です。
村にアンデスの風が
ついこの間までは田んぼで人々がザクザクと秋を知らせる重みのある音を鳴らしていたというのに、冬はもう田んぼにやってきていて、百姓たちは秋じまいを始めている。
私はホッとひと息をつき、冬の風を感じながら夏の終わりのある夜のことを思い出している。八月二十七日、去年のYae&トークライブにつづき、この農場で“アンデスペルー風の声”をひらいた。今でもこの日のことを想うと楽しくて幸せになれる。私たちの家に百姓仲間や地元の人たち、都会の人たち八十人くらい集まってくれた。村にはアンデスの風が吹いている。家が人が山が水が風が踊りたくてうずうずしている。さあ今日は楽しい楽しいお祭りだ。
近くの百姓がジャンベを鳴らして、踊って、百姓見習いのきよむさん(25)が歌って、奄美大島の三味線の音がやさしくて、そしてアンデスペルーの楽器たちが素敵な音を奏でてる。楽しくて少しさみしさのある音だ。そしてみんなが踊りだした。ほんとにみんな踊ったんだ。ボーカルのブラウリオさんの「みんな踊ってね」とやさしい声が聞こえる。畳の上をドンドンとみんながあまりにも楽しく踊るもんだから、ブラウリオさん「お父さん、家大丈夫ですか?」と冗談が飛ぶ(笑い)。楽しかったけど床が抜けるんじゃないかとちょっと心配だった。だけど人が畳を踏む音を聞きながら、家は笑ってる。「人間が、祭りがかえってきた」と笑ってるよ。ステキな夜だ。
アンデスペルーの彼らと出会ったのは大阪駅の歩道橋だった。日本の都会の中でやさしく、アンデスの風を奏でている、彼らの瞳に私はさみしさを感じた。ここでは彼らの祖国の風は感じられない。みんな急ぎ足で歩いてるから。体を彼らの音の方へ向けてほしい。私は彼らに近づき「私の家でライブして」とさそった。
この時、あ~す農場に研修生として東ティモールからジョアンとアホンソが来ていた。彼らも楽しそうに飛び跳ねて踊っていた。ライブの終わりには東ティモール伝統音楽テベテベをみんなで手をつないで踊った。テベテベは農作業の中で生まれた音楽と踊りで、大地を踏み込むように踊る。夜、みんな帰ったあともみんなでテベテベを夜遅くまで踊った。ブラウリオさんは「こんなすばらしい夜に飲まないなんてもったいない」と言うとビールを飲んでいる。
ブラウリオさん、アンヘルさん、ウルベンさんには本当にすばらしい日をつくってくれて感謝だ。いや…感謝で終わるんじゃなくて恩返しをしなくちゃ。夜が明けた次の日もペルーの風や東ティモールの風が吹いている。風は楽しそうに踊ってる。ライブでともに踊った友達から、ステキな手紙が届いた。「あい・れい、ほんと、すばらしい八月の終わり、夏の終わり、晩夏の祭りでした。もうアンデスの山だったり、東ティモールの山だったりで国境をこえてました。私は二階で早くから寝ていたんですが、時折“ドンドン”と、床を踏んづける音に目がさめました。家がゆさゆさ、ゆれる力強いかけ声と足音、女でも男でもない人間が大地をふみかためる足音、心地よかったよ」。こちらこそ来てくれてありがとう。
10月12日、東京で東ティモールのイベントが行われた。ジョアンとアホンソは八月の一ヵ月間あ~す農場でバイオガスのことなど勉強し、九月には埼玉県の霜里農場で研修していた。私とあいはジョアンたちに会いに東京のイベントに参加した。去年このイベントでジョゼ(去年の東ティモールからの研修生)に教えてもらった言葉「ライ・ハムック」(ともに歩もう)を胸に。ジョアンとアホンソは元気そうだ。でも少し都会につかれている。あいも私も久々の東京につかれていた。
このイベントでジョアンは自分たちティモールの民のこと、誇りを持ってこう言った。「東ティモールではみんな家族です。人々皆つながっています。助けが必要な家には手伝いに行きます。農作業は村のみんなでします。田植えや稲刈り。ティモールには文化があります。私たちにはテベテベがあります」。
彼らティモールの人たちは身も心も誇り高きティモールの民だと言う。自分たちの文化に誇りを持っている。でも彼らは日本は進んでいていろいろ教えてもらうことがあるという。私はジョアンたちに「アドバイスがほしい」といつも言われていた。いつも考えてみた。何も言葉は出てこなかった。けど答えがわかった。「私にアドバイスできることはない」と答えるとジョアンは笑っていた。うちらはいつもジョアンたちに教えてもらうことだらけだ。私たち日本人にまだ教えられることはないと想う。「ただ今はあなたたちからいろいろ教えてもらう、そしてともに歩んでいけばいい」。
そして私が世界にふれた時、きっと彼らに教えられることがあるかな。
あ~す農場
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兵庫県朝来市和田山町朝日767
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1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
2017年1月1日号~2022年12月1日号
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