自給自足の山里から【201】「秋の山村へ戻る」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【201】「秋の山村へ戻る」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2015年11月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

秋の山村へ戻る

稲刈りの鎌を手に3歳

稲刈りの鎌を手に3歳

 

3歳の稲刈り

10月の秋、天高くどこまでも青い空に、一点黒いカラスが飛びゆく。大地は黄金(こがね)色に輝く田んぼの稲穂たちが揺れている。
今日は、稲刈り日和である。
ザクッ! ザクッ! と、稲を刈りゆく音が山間に響く。
カエルたちがピョンピョンと足元を飛び跳ねる。
「刈ったぁ~」と、左手に稲をつかんで掲げているゆたか(3歳)である。
その笑顔は、輝き、美しい。
姉のなお(5歳)、兄のみのり(8歳)に、いとこのつくし(12歳)、すぎな(8歳)、かや(5歳)、近在の若い百姓のわかなさんの嫁2人、同じく康平くんの息子たちも負けじと、刃がギザギザの稲刈り鎌を手に稲の株元に向かう。

 

都会の若い女性の稲刈り初体験!

大阪から稲刈りにやってきた、あい・れい(26歳)の友人のみゆきさん・まいさんは「3歳の子が刈っている!」と驚き、「こりゃ、負けておれん」と繰り出す。「初めてにしてはうまく刈っている」と、あい・れい。
今年の稲刈りは、10月3日の土曜日ということもあり、ケンタ・げん・ちえら一家をはじめ、近在の若い百姓たちの一家、都会の女性たちと総勢25名で大にぎわいである。老いし者は、私ひとりである。
大阪・西成のみゆきさんは「今日は、みんなで稲刈り。初稲刈り・昨日は、初の五右衛門風呂。全て楽しかった。みんなで食べるご飯はおいしい! 星空見ながら歯磨き。
大阪・西成では味わえないこと。最高でした。何よりも子どもたちがすごい。よく働く。また来ます」。
また、まいさんは「稲刈り初めてでした。黄金色の中、子どもたちが鎌を持って、刈っている! すごい!! 美しい!! 素晴らしい!!
山の空気や風、星空、笑い声。生きているんだなぁって感じました」と、感想を残す。
あ~す農場の7枚の棚田、2反半(25アール)の稲刈りは、鎌持って、手で、一株一株勝手、わらで束ね、稲穂を下にして“たこ干し”(その有様がたこのようで)する。
道路際に作った稲城(4段)まで運んで架けていく。夕方までに終わる。
10日もすれば、脱穀し、もみすりして、新米が食べられる。
こんな手作業の稲刈り・天日干しは、今の日本でめずらしい、天然記念物である。

稲城の前で

稲城の前で

 

稲もよろこんで

みんな、私が。退院して1週間も経っていないのに、田んぼに立って稲刈り作業に加わっているのにびっくりしていた。
わかなさんは「今年は、田植えも手伝うことができ、そのときは入院前、おそらくこの秋の稲刈りは、昌也さんはご不在でやることになるのかなあ…と正直思っていたから、こんなに早い、早すぎる回復、昌也さんの生命力に、ただ驚きと喜びを感じずにいられなかった。本当に早く退院が叶ってよかった。
田んぼも草取りにあまり入れなかっただろうに、予想以上の実り。昌也さんが帰ってきてくれて、稲もよろこんで刈られるのを待っているようでしたよ! 私もうれしい」と、うれしい感動を伝えてくれる。
このあと、数日して足と腰が痛くなった。
「大手術で3ヵ月近く入院していたのだから、元の体に戻るのは半年はかかる。無理したらあかん」と、経験者の先輩に叱られる。

 

都市と山村の現実にとまどい

3ヵ月におよび入院生活を経て、この中国山地のふもとの山村に帰ってきた。
3度の食事が用意され、何かと身の回りの世話をしてくれる“便利”な生活から一転して、食事は自分で米を研いで炊き、畑から野菜、トリ小屋から卵採って料理し、掃除、選択、トリ・犬らにエサやりし、薪割って五右衛門風呂を焚き…など身の回りの全てをこなす“暮らし”。
30年余のことで慣れているとはいえ、片目失い、長く他人任せのベッド生活に我が心身が慣れていて、なじまず、戸惑いびっくり。
私の留守、入院中の8月30日から2泊3日で、「百姓体験」合宿に、関西大学盛況の学生企画室の6人の学生がやってきていた。ちえ・利くんたちが指導・世話する。
「自給自足の大変さを感じました」「大量生産・消費・廃棄を繰り返し、コンクリートでできた家に住む。そんな生活(ライフスタイル)に疑問をいだくことができました」「全てを自分でしなくてはいけず、その上で自分のやりたいことをすることは、とても大変だと感じました」などの“感想”に、妙に同意を感じる。戸惑う私に戸惑う。

稲を束ねる私

稲を束ねる私

〈隠居〉と『提言』届く

こんなあ~す農場の今であるが…
「あ~す農場の明日?」と題して、
「このたび、昌也さんが手術されて、左目失い、以前のようには、動けなくなってしまいました。『あ~す農場』の研修生受け入れなども根本から考え直さなければならないでしょう」と心配ください、「長い間、みなさんにお世話になり、その奮闘ぶりを見てきた立場」の友田さんから『提言』が届いた。
「大森さんの身の回りの生活が大変不自由になると思います。昔は〈隠居〉という言葉がありました。年寄りが第一線を退き、若い者にバトンタッチすることです。大森さんは、今まさに〈隠居〉すべきではないでしょうか」
「これまで他人の世話をしてきましたが、これからは家族のみなさんの世話にならなければならない段階になっと思います、ずばり、誰か家族と〈同居〉することをおすすめします」。
(2015年10月13日)

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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