自給自足の山里から【115】「十代の年寄りとゲバラの娘と」|MK新聞連載記事
目次
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2008年7月16日号の掲載記事です。
大森昌也・あいさんの執筆です。
十代の年寄りとゲバラの娘と
魂(たま)げました!!―MK読んで来訪
「MK新聞が来たら、まず『自給自足の山里から』を読むのを楽しみにしています。今度、念願かなって、哲学の道のところの“とうりゃんせ”(おみやげ店)の塚口さんと行きます」と京都右京区の中村さんが6月21日来訪泊する。娘たち(あい・れい 18歳双子)が、居候たち(常に四~五人、多いと八~九人)の食事が大変だろうと、たくさんの料理の品を持参くださる。
五月中旬からはじまった三十三枚、一町歩(ヘクタール)余の田んぼの田植えが、あ~す農場(あい・れいが仕切る)と、村人(ケンタ・よしみの熊太郎農場、げん・りさ子のあさって農園、ユキト)と居候たち、都会からの家族連れで、ようやく一ヵ月近くかかって終わる。もう田植え無く、翌日は、温泉に浸かり、知人の出石そばを味わってもらう。
「魂(たま)げました!! 源郷 そのものに再会出来て嬉しく存じました。ありがとうございました」と、感想を書き残される。
問われる親・大人……涙!
今、我が農場には、「不登校」の十四歳の子どもがいる。東京から車で父親が二十日ほど前に連れてきた。「家にいるとゲームばかりして、昼夜逆の生活なので」と。もうびっくり!八十歳の老人の様相で、もやし。まともに歩けず、鎌と鍬持ってもからだ動かない。少なくとも私の子たちは、十四歳にもなると農場の農作業は大方こなしてきた。
あいは、親としての責任というか、変わろうとせず、子どもに押しつけているのに、また、母親は「父親がしていることなので」と責任のがれ、なすりつけあいに腹を立てている。私にもつきつけられている思いで痛い。
また十八歳の若者は、一ヵ月前、突然小さなリュックを背負って農場に立つ。その様相は四十歳くらい。絶望の表情! 「居候」の河野君が聞いたところだと、私の本(注)を大阪の図書館で読んで、昨日は、円山川河裏で寝た、親きょうだい無く、大阪などで野宿生活してきたと。五右ェ門風呂をすすめるが入りたがらず、ほとんどしゃべらない。でも部屋にあったタイコをたたき、笛を吹く。その音を聞いて、私は涙が止まらない。同じ年齢のあい・れいは、「世の大人は冷たい! ひどい!」と怒る! それは私にも向けられている。日々、百姓体験「居候」の若者たちと百姓仕事に汗を流す。ほとんどしゃべらない彼が、私が冗談言うと、目で、また、口元をちょっと笑う。そして「しばらく置いてください」とポツリ言う。うれし涙である。
あい・れい チェ・ゲバラの娘アレイダさんと会う!
田植え忙しい五月二十日、あい・れいは、大阪に出かけた。“チェ・ゲバラの娘、アレイダ・ゲバラ来日!”の大阪の集会の司会を依頼されたのである。以下はあいの報告である。
アレイダさんは、父チェと同じ医師で、ラテンアメリカやアフリカをとび廻り、子どもたちの医療活動等幅広く、たくさんの命のために働いている。そして、日本にやってきた。
まず、広島に足をつけた。チェ・ゲバラが日本に来た時、周囲の反対を押し切って、自分の足で広島に行った。強い衝撃を受けた。
そして「アメリカにこんなにされて、なお君たち日本人は、彼の言いなりになるのか」と問う。
アレイダさんに出会ったのは二回目。昨秋、私とれいは、“チェ・ゲバラ記念・国際ブリガーダ”に参加し、式典会場で見た。今度、初めて、あいさつした。体がビリビリした。少し疲れているみたいだったけど、私とれいの焼いたパンを、にこっとやさしい笑顔で受けとってくれた。すごくうれしかった。
「ポルケ(なぜ)?」とアレイダさん
アレイダさんのお話が始まった。私とれいは司会をしていて、横顔を見ながら聞いていた。立ち上がって語りかけた。ステージであれほどのめりこむように語る人の姿を初めて体で感じた。
スペイン語はよく分からないのに「ポルケ(なぜ)?」との声が出る度に、ドクッとした。「なぜ? 私たちキューバ人にできることがあなた方先進国の方にできないのですか?それはきっと、国民に力が無いからでしょう」。今も、私の中に、ずーっと残っている。
アレイダさんのトークは短い時間だったけど、一言ひとことは魂の声のようだった。
敵の地にも花を咲かせよう
「キューバ人らしいこと少しします」と、にこっと笑った。そして、すごくうつくしい声で歌ってくれた。つよくやさしい歌。歌詞ははっきり覚えてないが、「あなたの地にも花を咲かせましょう。私の地にも花を咲かせましょう」。味方の地にも、敵の地にも花を咲かせましょう。そんな心を持っていたい。
その後、キューバダンスがはじまった。ちょっと堅苦しいこの場に風をまきこむ。おどっている人の姿はきれい。私はあたたかくなる。でもフェスタでのダンスの時間はとっても短く思えた。あいさつ(・・・・)より、もっとおどっていたかった。
広島のこと、私はちゃんとは知らない。でも心の奥がすごくドクドクあつくなる。今、愛がこんなにも傷ついているのに、受けとめもせず、なすりつけあう親たち。子どもを変えるのではなく、親が変わらないと何も変わらない。いろんな言葉がとんでくる。おどりは日々の労働の中からキラキラと生まれる。本当にすばらしいんだ。私はもっと心と体、魂と、みんなとおどりたい。アレイダさんに出会えてすごくうれしかった。家に帰れば、田んぼはカエルの声にあふれていた。
いっしょうけんめいに、生まれてくる、命の声にあふれだしてる。消えていく、いのちの声にも、山も森も海もコンクリートジャングルもみんなあふれている。
(注)「六人の子どもと山村に生きる」(麦秋社)、「自給自足の山里から」(北斗出版)。ともに一般書店にはありません。あ~す農場にご注文ください。
あ~す農場
〒669-5238
兵庫県朝来市和田山町朝日767
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1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)