エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【392】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めてくらしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2020年12月1日号の掲載記事です。
本だけ眺めてくらしたい
新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために、京都市内ではゴールデンウイークと夏の古書市が中止になったが、この秋は待望の開催。
秋は例年、屋外(寺の境内)のいわゆる青空市なので、もとより密閉の心配はないが、人出はやはり結構なもの。
掘り出し物を求める熱心な古書ファンが店舗テントに群がり、かなりの密集・密接ではあった。
ところで、近年、市での古書価が下がりつつあるように感じる。特に、低価格帯がそう。
青空古本市の百円均一や3冊500円といえば、かつては、廃棄処分の一歩手前のような売れ残り本(時代遅れの大学講義テキスト、流行が過ぎた実用本、今は人気のない作家のベストセラー本など)が多かった。
しかし、最近では、店頭の棚なら立派な価格の値札をつけて並んでいるような本の安売り均一台も少なくない。逆に言えば、今後はそういう評判の古本市に客はより集まるようになるだろう。
例えば、この秋、京都(知恩寺)と大阪(四天王寺、大阪天満宮)で開催された古本市での収穫の一部をご紹介しよう。
500円均一で買ったのは『モンテーニュとその時代』(関根秀雄、白水社)や『モンテーニュ 思考と作品の様式とその進化』(竹田英尚、白水社)。定価は前者が7,500円、後者が8,300円もする本だ。
『デュラス戯曲全集』全二巻揃いは、3冊500円のコーナーで。
百円均一では『カラー図説 日本大歳時記 座右版』(講談社)。定価は13,800円。函・ジャケットなしだが、本体は問題なし。
同じく百円は、弟子たちが師の喜寿を祝って編集した『林火一千句』。頒価10,000円ナリ。
大正三年に創刊された新潮文庫の記念すべき第一冊目(今の文庫よりひとまわり小さい判型)トルストイ『人生論』(初版、赤線引きと書き込みあり)は、市の最終日に10冊500円の処分価格で買った内の一冊。
最後に、装丁が素敵なので、フランス語は読めないけれど、翻訳書は何種類か持ってるからと、つい買ってしまった(知る人ぞ知る出版社)ジャン=ジャック・ポーヴェール社が1967年に刊行したジョルジュ・バタイユ『眼球譚』。
ピンクの無地の函(書名も著者名も何もない)に、眼のイラストが一枚貼られただけの小型本。これも3冊500円!
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)