エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【358】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【358】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2018年2月1日号の掲載記事です。

 

 

本だけ眺めて暮らしたい

自転車で鴨川べりを一年中、走っている。くいな橋と西賀茂橋の間を。
昼食は、自身で作り持参した弁当を川面と風景を眺めながら食べる。
途中、何軒か古本屋に立ち寄って、買ったばかりの本を川辺で読む。
特に予定がない休日の、今の基本的な過し方だ。

独り座っていると、話しかけてくる人が時々いる。散歩の人や観光客など。
中には宗教の勧誘をする人もいるが、それでも敬遠せず話をする。
「布教の人に鴨川でよく声をかけられる」と言うと、街なかを歩いている人は足をとめてくれないので、とのこと。
それに、川辺に独り座っている人は内省的な、あるいは、思索にふけるタイプとの印象を持たれているのかもしれない。
宗教勧誘のターゲットとして相応しいのだろう。
ただ、その人たちは世間話ではなく言いたいことがあり、それを確信を持って説かれても、またそれが熱弁であればあるほど、今会ったばかりのこちらとの間にたちまち溝ができてしまう。
というか、私には、彼女ら(声をかけてくるのは異性だ)は溝を掘っているようにしか思えない。
その上、なぜこちらにジャンプしてこないのかと、無茶ぶりされているような気がする。まるで、異邦人を見る目つきで。

ところで最近、NHKテレビで久保田早紀さんの姿を久しぶりに見かけた。四十年ほど前に自作の「異邦人」というデビュー曲が空前のヒットをしたものの、その後はヒットに恵まれず、五年で引退した歌手だ。
現在は、本名の久米小百合の名で「音楽宣教師」として活動。聖歌などの歌や演奏を通じてキリスト教の福音を人々に伝えているという。
番組では彼女自身の宗派や洗礼を受けた教会の系統など、詳しいことには触れていなかった。

二十歳そこそこで脚光を浴び(実像はわからないが)ツンとすました美女だった彼女が、今や還暦の一つ前だという。
飾らない身なりで信仰に生きる今の彼女の、その穏やかな表情のなんと感じのいいこと!
こんなに感じのいい人なら、この人が拠って立つ教えってどんなものだろう、と思う。
勧誘のための〈言葉〉のどんな理屈やレトリックよりも説得力がある。結果が目の前にあるのだから。
もちろん、その信仰が私にとって共感できないものだったとしても、その人にとってそれは真理であるに違いない。
私だって、鴨川べりか、いつかどこかで、私自身の信仰と出会う時が来ないとも限らない。

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

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