大晦日の風物詩として有名な京都・知恩院のダイナミックな除夜の鐘
目次
大晦日の年越しに行われる恒例行事と言えば、除夜の鐘。
紅白歌合戦が終盤を迎えたころ、遠くの方から鐘の音が聞こえてくるのが日本の年越しの風物詩です。
紅白が終わると、「ゆく年くる年」で、全国各地の除夜の鐘が放映されますが、毎年取り上げられるのが知恩院のダイナミックな除夜の鐘です。
毎年3万人が集まり、日本一有名といっても過言ではない、知恩院の巨大な梵鐘の除夜の鐘を見に行きました。
2023年の除夜の鐘は、コロナ禍中の事前申込制ではなく、通常どおり申し込みなしでも見学できるように戻りました。
2023年も22:20ごろから公式YouTubeでライブ配信されます。
除夜の鐘とは
まず、除夜の鐘とはそもそも何なのか、を見ていきましょう。
除夜とは
まず、除夜の鐘の「除夜」とは何でしょう。
除夜とは、「除日(じょじつ)」の夜を意味します。
除日とは、「古い年を除く日」ということを意味し、大晦日と同義で12月31日を意味します。
「元旦」が元日の朝を意味するように、「除夜」は大晦日の夜を意味します。
除夜の鐘の歴史
1年の最後の日を除夜(あるいは除夕)として祝う文化は、日本だけではなく、中国、韓国、ベトナムなど東アジアの漢字文化圏に広がっています。
意外なことに、インド発祥の仏教とは直接的には関係ありません。
年越しに寺院で梵鐘を撞くという風習は、中国ではじまり、鎌倉時代に日本へと伝わりました。
ただし、除夜の鐘が今のように広く行われるようになったのはそう古い話しではありません。
江戸時代まで、除夜の鐘に関する記録は断片的にしか残っておらず、少なくとも今のような庶民的な行事ではありませんでした。
除夜の鐘が普及し始めたのは明治以降のことで、今のように広く一般化したのは昭和の1930年代からであると言われています。
同時期に本格的に普及したラジオで大晦日に年越しの除夜の鐘が全国放送されるようになったのが大きなきっかけとなりました。
伝統行事のように思われている除夜の鐘ですが、案外新しい行事なのです。
なお、除夜の鐘発祥の地である中国ではほぼ廃れており、今では日本独自の年越し行事となっています。
なぜ108回撞くのか
除夜の鐘は、一般に108回撞かれます。
これは仏教で108あるという煩悩の数を打ち払うために108回撞くと言われています。
また月の数である12と、二十四節気の24、七十二候の72を足した数であるという説もあります。
いずれにしろ、除夜の鐘は仏教思想とは深いつながりがあるものではなく、108回という数にはそれほど重要な意味はありません。
参拝者全員に撞いてもらうため、特に回数を数えていないお寺もよくありますが、何の問題もありません。
除夜の鐘はいつ撞くのか
旧年から新年へかけて撞かれる除夜の鐘ですが、そのタイミングはいくつかに分かれます。
- 旧年中に107回撞き、新年に1回撞く
- 新年になってから撞きはじめる
- 旧年の定刻から撞きはじめ、年越しを挟んで新年に撞き終わる
1つ目が正式な作法であるとされることもありますが、そういう決まりはありません。
知恩院も含めて3番目の方法が主流です。
梵鐘について
続いて、除夜の鐘で撞かれる梵鐘(ぼんしょう)そのものについて見ていきましょう。
仏教と深く結びつく梵鐘
お寺といえば、梵鐘がつきものです。
東アジアでは、梵鐘は重要な仏教の法具のひとつとして発展してきました。
しかし、仏教発祥の地であるインドでは梵鐘は用いられていません。
中国に仏教が広まっていく過程で、古代からの青銅器文化と結びつき、梵鐘が用いられるようになったとされています。
日本には、仏教伝来と同時に梵鐘も導入されました。
仏教が東アジアに根付いていく過程で、梵鐘の響きは聴く者の苦を取り除き、悟りへと導く功徳があるとして、重要視されるようになりました。
また、毎日朝夕の時報代わりに撞かれるほか、法要の予鈴などで撞かれるなど、実用的な意味合いもありました。
日本三大梵鐘とは
日本には仏教伝来と同時に梵鐘が根付きました。
現存最古の梵鐘は妙心寺の黄鐘調(おうしきちょう)で、698年の銘が残っています。
以来、日本では数々の梵鐘が作られてきました。
中でも日本を代表する巨大な梵鐘として、以下の3つが「日本三大梵鐘」として挙げられます。
- 知恩院の鐘(慶長19年(1614年)鋳造)は高さ3.3m、外形2.8m、重さ70トン
- 方広寺の鐘(寛永13年(1636年)鋳造)は高さ4.2m、外形2.8m、重さ82.7トン
- 東大寺の鐘(751年鋳造)は高さ3.9m、外形2.7m、重さ26トン
知恩院の梵鐘は日本最大と紹介されることもありますが、方広寺(東山区)と比較するとやや小ぶりということになります。
方広寺の梵鐘といえば、「国家安康 君臣豊楽」の銘に徳川家康が激怒し、大坂の陣の口実となったことで有名です。
別に、「日本三名鐘」として、「姿の平等院」「声の三井寺」「銘の神護寺(非公開)」が知られます。
知恩院の梵鐘
知恩院の梵鐘は寛永13年(1636年)に鋳造されました。
「吉水の鐘」とも呼ばれ、重要文化財に指定されています。
知恩院の梵鐘は、かつては法然上人の法要である4月の御忌大会(ぎょきたいかい)でのみ撞かれていました。
毎年4月18日から25日まで8日間にわたって行われる御忌大会期間中は、毎日8:00と12:00に鐘が撞かれます。
なお、今では御忌大会と除夜の鐘に加え、1月の成人祝賀式でも鐘が撞かれます。
前述のとおり、除夜の鐘自体がそれほど歴史の古い行事ではなく、知恩院の除夜の鐘が始まった、1930年のことです。
日本放送協会(現NHK)ラジオの要請により、はじめて除夜の鐘が行われました。
日本でラジオ放送がはじまったのは1925年のことなので、まだラジオ草創期の時代です。
知恩院の除夜の鐘レポート
2018年の大晦日12月31日に、知恩院の除夜の鐘を見に行ってきました。
行列に並ぶこと3時間弱
知恩院の除夜の鐘といえば、日本で最も有名です。
毎年3万人もの参拝者が訪れるとのことで、当然かなりの待ち時間が予想されるため、早めに訪問。
20時過ぎに知恩院を訪れた時点で、既に大行列ができています。
除夜の鐘のときは、いつもの入口である三門からではなく、北にある黒門から入ります。
既に黒門が開門され、列が動き始めています。
すでに数百メートルの行列ができていることになりますが、その最後尾に並びます。
気温は4度で、風はあまりありませんが、かなり寒いです。
ここで除夜の鐘のスケジュールの確認です。
知恩院では、
20:00 開門
22:40 撞きはじめ
23:00 閉門
という順番です。
山門前の案内には書かれていませんが、撞き終わりは0:30過ぎくらいになります。
動き出した流れに乗り、すぐに黒門をくぐって境内へと入ります。
黒門を入ってすぐの石段のところで流れが止まり、長い待機に入ります。
待機時間の間、私はラジオアプリで紅白歌合戦を聞きながら待ちました。皆さん思い思いに過ごされているようです。
小一時間ほど待ったところで、先頭が前に進んだようで列がぐぐっと進みます。
150mほど進み、御影堂修復工事中は本堂代わりの法然上人御堂への入口にある武家門前へ。
中にある法然上人御堂では、このあと法要が行われます。
行列は微妙に動いたり止まったりを繰り返し、100mほど進みます。
阿弥陀堂前では、冬桜(フユザクラ)が咲いています。
冬にも咲く桜はいくつか種類がありますが、京都で冬桜といえばここ知恩院が代表です。
「この花何やろ・・・。えっ桜やん」という声も聞こえてきます。
さらに待つこと小一時間。
法然上人御堂での法要を終えたお坊さんたちが御影堂と阿弥陀堂を結ぶ回廊に現れました。
阿弥陀堂から地面へと降り、大鐘楼の方へと歩いて行きます。
いよいよ22:40から始まる除夜の鐘を担当されるお坊さんたちなのでしょう。
さらに行列がずずっと前に進み、修復工事中の御影堂前へ。
2012年からはじまった平成大修理ですが、2020年の4月に落慶法要が行われました。
22:40からの除夜の鐘を控え、大鐘楼では22:35から法要が行われるはずですが、私の待機場所からだとその様子はうかがえません。
さらに待つこと20分。
ついに除夜の鐘が始まりました。
境内には「ぐぉーんー」という大きな鐘の音が響き渡ります。
宝佛殿の左奥にある少し明るいところが鐘のある大鐘楼です。
除夜の鐘が始まると、行列は一定のペースで少しずつ少しずつ前へと進みます。
約1分おきに響き渡る除夜の鐘により、テンションもアゲアゲです。
いよいよ大鐘楼へと登る坂道へと入ります。
そして、寒い中並び始めてから3時間弱。ようやく除夜の鐘が行われている大鐘楼へと到着しました。
豪快でアクロバティックな除夜の鐘
「ゆく年くる年」でもおなじみのとおり、知恩院の梵鐘はあまりにも巨大なため、特殊な撞き方をします。
撞き手だけで何と17名もいます。
内訳は親綱を持った1名と、子綱を持った16名です。
中でも主役である親綱担当は、実にアクロバティックな動きをします。
子綱担当の撞き手が何度か後ろと鐘木(しゅもく)を引き、少しずつ勢いをつけていきます。
親綱担当の撞き手が「え~い、ひと~つ」と掛け声をかけ、子綱担当の撞き手16人が「え~い、ひと~つ」と復唱して大きく鐘木を後ろへと引きます。
「そ~れ」と唱和するのと同時に子綱担当は縄を緩め、親綱担当は思い切って反動を使い、体全体を投げ出すように使って撞きます。
撞いた瞬間、子綱がぐわんとたわみます。
どれだけ勢いよく撞かれているかというのがよくわかるシーンです。
知恩院の梵鐘は、このような特殊な撞き方をしなければ鳴らないのかというと、そういうわけではないようです。
実際、御忌大会のときはたった3人の手によって普通に撞かれます。
ただし音はかなり控えめです。
より大きく響かせたい、除夜の鐘特有の撞き方なのです。
一回撞く度に、大鐘楼内では撞き手とは別のお坊さん3人が五体投地をしてお祈りを捧げます。
五体投地とは、五体である両手、両ひざ、額を地面に投げ伏す礼拝で、最も丁寧な礼拝方法です。
大鐘楼前に入ったところから半回転し、撞き手側から見た様子です。
勢いよく梵鐘へとぶち当たる鐘木がよく見えます。
親綱担当の撞き手は、梵鐘の反対側を向いているので、表情まで良く見えます。
除夜の鐘は、概ね1分強ごとのペースで撞かれます。
親綱担当の撞き手はかなりの重労働なので、3打ごとに交代しながら撞きます。
なお、鐘木をひく子綱担当はそれほど力を必要とはしませんが、16人もの人数がいるのは、十六羅漢になぞらえているためです。
大鐘楼の周りは、ぐるりと参拝者に取り囲まれています。
おおむね大鐘楼を一回りして退出することになります。
アナウンスも流れるとおり、次から次へと参拝者がやってくるため、滞留するのは危険ですので、譲り合いの心を忘れないようにしましょう。
人の流れに逆らわずに進むと、概ね10分くらいで円山公園側の出口へと付きます。
ですから、間近で除夜の鐘を撞く瞬間を見られるチャンスは10回くらいということになります。
除夜の鐘見学のポイント
以下は2018年の情報です。
いつ並べば良いか
2018年は、20:12に並び始め、22:57に大鐘楼前へとたどり着いたので、待ち時間は2:45でした。
並び始めがもう少し遅かったとしても、おそらく待ち時間は3時間弱程度ではないかと思われます。
ちょうど大鐘楼で年越しを迎えたいのであれば、21時頃から並ぶと可能性が高まります。
もし最初の除夜の鐘を聞きたいという場合は、おそらく19時前には並び始めている必要があります。
閉門は23時ですが、これは23時までに並べばOKという意味ではありません。
23時までに境内へと入っている必要があります。
たとえ並んでいても23時の時点で門外にいたら入ることはできません。
正味のデッドラインは、概ね22:30くらいのようです(天候等によって毎年変わるので断言はできません)。
除夜の鐘は0:30過ぎ頃に終わります。22:30ギリギリに並ぶと待ち時間は2時間で済むので、待ち時間を最短にしたいという方はギリギリに並ぶというのも選択肢のひとつかもしれません。
寒さとトイレに注意
2018年の大晦日は、気温4度と比較的しのぎやすい冷え込みでしたが、冬の真夜中に3時間も立ちっぱなしで待機というのは、かなりきついものがあります。
防寒対策は万全にしましょう。特に足下からの冷え込みがきついので、下半身の防寒が重要です。
そして、行列に並ぶ前には必ずトイレに行きましょう。待機中も行列はちょいちょい動くので、途中でいったんトイレに抜けるのは難しい場合もあります。
冬の寒い夜を3時間ほど並ぶ必要はありますが、やはり一度は見る価値がある知恩院の除夜の鐘です。
なお、このあと仮眠の上、円山公園の上にある東山山頂公園で初日の出を見に行きましたが、それはまた別のお話しです。
知恩院の除夜の鐘情報
時間 | 20:00 開門 22:40 除夜の鐘開始 23:00 閉門 |
拝観料 | 境内自由 |
TEL | 075-531-2111 |
住所 | 京都市東山区林下町400 |
アクセス | 京阪「祇園四条」より徒歩10分 |
除夜の鐘の試し撞きレポート
知恩院では大晦日に先立ち、毎年12月27日の14:00から除夜の鐘の試し撞きが行われます。
除夜の鐘ほどではありませんが、試し撞きも毎年ニュースでも放映される恒例行事とし
て人気です。
2008年12月27日の試し撞きの様子です。
16本の子綱がきれいに並べられています。
16人の撞き手がこの子綱で鐘木を後ろに大きく引っ張ります。
お坊さんたちが集まり、試し撞きがはじまります。
まず、梵鐘の前で簡単な法要が行われます。
この大鐘楼自体も1678年建立の重要文化財です。
当たり前ですが大晦日は夜なのでよく見えません。試し撞きは日中なので本番では見えないところまでよく見えます。
この試し撞きは単なるパフォーマンスではなく、撞き手の選抜試験でもあります。
毎年多数いる希望者のうち、試し撞きの良しあしにより、30人程度の撞き手が選抜されます。
そのため、皆さん真剣です。
おわりに
一年を締めくくる大晦日の年越しは、除夜の鐘で終えたいところです。
大晦日の京都市内は鉄道や一部の路線バスも終夜運行していますが、本数は少なく移動には時間がかかりがちです。
しかし、タクシーならいつもと変わらず便利に移動可能です。
タクシーをうまく使うと、知恩院だけではなく、複数箇所の除夜の鐘を巡ることもできます。
特殊な知恩院の除夜の鐘は見学するだけですが、自分で撞くことのできる除夜の鐘もあちこちにあります。
2023年の最後は、ぜひ除夜の鐘で締めくくりましょう!
京都の除夜の鐘スポット(一部)
- 誓願寺(中京区)
- 壬生寺(中京区)
- 神泉苑(中京区)
- 千本ゑんま堂(上京区)
- 清水寺(東山区)
- 高台寺(東山区)
- 建仁寺(東山区)
- 智積院(東山区)
- 方広寺(東山区)
- 東福寺(東山区)
- 永観堂(左京区)
- 金戒光明寺(左京区)
- 真如堂(左京区)
- 百万遍知恩寺(左京区)
- 鞍馬寺(左京区)
- 天龍寺(右京区)
- 常寂光寺(右京区)
- 善峯寺(西京区)
- 毘沙門堂(山科区)
- 平等院(宇治市)
- 萬福寺(宇治市)
- 乙訓寺(長岡京市)
- 光明寺(長岡京市)
- 宝積寺(大山崎町)
知恩院の関連記事
京都MKタクシーのご用命は
お電話で ➡ 075-778-4141
京都観光には観光貸切タクシーもおすすめです。