截金師・江里佐代子さんを悼んで〈下〉|MK新聞連載記事

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截金師・江里佐代子さんを悼んで〈下〉|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、フリージャーナリストの加藤勝美氏よりの寄稿記事を掲載しています。
截金師・江里佐代子さんを悼んでの記事です。
MK新聞2007年12月16日号の掲載記事です。

去る2007年10月3日、截金師で人間国宝の江里佐代子さんがご逝去されました(享年62歳)。
本項では、筆者が1993年に江里さんを取材し、本紙「関西おんな智人抄」に掲載した記事を再録いたします。

「いつ寝るのか」と不思議がられて

佐代子さんは「ご仏像のお荘厳(しょうごん)」と同時に、額に入れるような小さなものに截金を施すことも始めた。
普通の小箱を材料屋から買うつもりだったが、夫の康慧さんは「だめだ、ご荘厳する截金が何にでもできると思うな。やるからにはオリジナルを」という。
そこで、自分で図面を書き指物師に特注したが、これも夫の言いつけで一個や二個ではなく同じものを五個か十個単位、合わせて百個にもなり、届いた請求書を見て「大変だ」と思った。

「そうして追い込まれてプロ意識を養われました」
たとえば、香盒(こうごう)には羽子板、団扇、かざぐるま、紙兜などをかたどったものもあって楽しいものだが、信仰の対象となる仏像の荘厳には“個人”を出してはいけない。
目立ち過ぎてもいけない。作業は繰り返しが多いから“耐える”ことが必要になる。
しかし、創作は音楽を聴きながら、大声を出し、高揚し、うきうきしながらできる。
「そういうことが出来る自分が嬉しいんです」

37歳で初めて出品した京都府工芸美術展の二枚折屏風で大賞、1991年の三十八回日本伝統工芸展では公募作2,019点のうちの最高の総裁賞など、数々の受賞歴や多くの買い上げ先が、その作品の質の高さを裏書きしている。
漆をかけて截金の剥落を防ぐ技法を考え、だれも試みたことがないガラスに截金を施した試作もある。
夫は何についても厳しいが、父の宗平さんは何を見せても「今までで一番や」と言ってくれ、疲れ切っている佐代子さんの救いとなる。
「いつ寝るんだ」と周りから不思議がられるが、寝ようと思えばどこでも眠れるし、食べているときはすべてを忘れる。
息子は仏師、娘は截金師への道を歩き出した。

夫と一緒に見る古仏の截金の素晴らしさの背後にある信仰心に打たれ、故宮博物館の展示品に接して「自分の仕事を大変だと口に出してはいけない」と思い、感動で涙が止まらず、そこにへたり込むほどだった。
佐代子さんの取材の数日後、夫の康慧さんにもお会いする機会があり、二人で父の宗平さんを撮ったテレビのビデオを見ていた時、佐代子さんが仏像の截金のことで相談にやって来た。
ふたこと、みことでお互いに了解したらしかったが、同じ部屋の下で共同の仕事をすることが、江里夫妻の生み出す仏像にえも言われぬ“優しさ”をもたらしているように思えた。
(文献『工房探訪・つくる截金・江里佐代子』1990年 日本放送出版協会)

(1993年11月22日付3749号MK新聞「関西おんな智人抄〈162〉より再録。記録等は当時のものです)

 

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