自給自足の山里から【197】「初夏の山村、平和への思い」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【197】「初夏の山村、平和への思い」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2015年7月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

初夏の山村、平和への思い

手で田植えの6月

「うあ~、ぬるぬるしている! 足がとられる!」と大阪からやってきた若者。「そのうち慣れて気持ちよくなるよ」と娘のれい(25歳)。大阪の定時制高校を出て、今春から看護学校に通い、休日、友人を連れて田植え。
「足元に、真っ黒のかたまり! おたまじゃくしだらけ!」「アメンボがいる! オケラも、大きなタニシや小さいのもいる! すごい!」と、感嘆の声上げる若者たち。「こんな田んぼは、今どきあ~す農場くらいでしか見られないよ」「小さいのはカワニナで、ホタルのエサ。夜は、ホタルの光で幻想的よ!」と双子のあい(25歳)。大阪で障がい児保育に取り組む。
今年は、私の体調がよくないこともあって、あさって農園工房・くまたろ農園・孫たち・アメンボ農園らの若者たちで、9枚3反(30アール)の棚田をにぎやかに植える。
我が田んぼは、冬水不耕起田んぼである。昨秋刈った株が未だ残り、そのそばに、40日苗を一本一本植えていく。
「カメや!」と、追うのはかや(4歳)。足元から大小のカエルたちが飛び跳ね、石垣から青大将が首を出す。
空には、トンビが舞い、黒いカラスがカァー、白いサギも飛んでくる。

乱れ飛ぶホタルとオンドリ

孫たちは、田から上り、「桑の実採る!」と、木に登り、揺らして落とし、拾って口の周りを紫色に染める。
「熊座がある。熊が食べにきている」と、子どもらに教えるのはケンタ(36歳)。
家の中をツバメが出入り、「チィチィ」とさえずり、愛の巣づくりである。猫や青大将にやられていないことを願う。
巣づくりといえば、最近一帯が停電になった。カラスが、鉄塔にハンガーなどで巣づくりしていたのが原因だった。
五右衛門風呂を沸かし、入浴。山村の夜は、真っ黒の暗闇に若者呆然。
そんななか、ポッ、ポッと。「ホタルやぁ」「うぁ~、すごい!」と、乱舞に見入る。
夕暮れになると、我が愛犬(さくら)が、盛んに吠える。熊以外にも、テン・キツネ・タヌキらが、トリを狙う。
気になり、トリ小屋に入ると、一番に目につき、目が合うのは、オンドリ。毅然(きぜん)と立つ。その後ろ、上の方にメンドリたち。守っている。身一つで、対峙する姿に感動!

2万余の平和な縄文人の遺伝子

手植えは、もう30年になる。この村では苗をつくり手植えするお百姓がほとんどだった。が、亡くなると、息子たちは、「こんなしんどいこと」とやらず。受け継ぐのは私たちだけ。
10年ほど前からは、年中水を貯える不耕起の田んぼでのお米づくり。
機械を使わなくても、楽に手づくりで豊かに山村で生きていけると、「ささやかな見本」。「機心に捕らわれると堕落する」の思いの縄文百姓である。
NHK(5月30日朝)で、「現代日本人は、この日本列島で、1万6千年から3千年続いていた縄文人のDNAを引き継いでいる」と伝える。
1万余年にわたって、平和な時代を築いてきた縄文人の遺伝子は、「弥生されど縄文」に始まり、「武家社会なれど鎖国平和」「誤った明治維新なれど、70年の平和」と引き継がれている思いである。
孫のつくし(12歳)に、大人気のアンパンマンの作者やなせ・たかしさんは。「ミミズだって、オケラだって、アメンボだって、みんな生きている。友だちなんだ」と歌う。
我が山村では、実感できる。

必ず死者が出る! 血を流す立場にない人間が「血を流すことが必要」に怒り

元内閣官房副長官補の柳沢協二さんは、「新法では、自衛隊派遣の前提だった“非戦闘地域”という概念は…自衛隊を戦闘部隊の指揮下に入れず、直接の戦闘に巻き込ませないという意味があった。この概念を廃止して活動範囲を広げれば、今までより確実にリスクは高まります。イラクではなんとか戦死者を出さずに済みましたが、あれ以上のことをやれば必ず戦死が出ると思います」(朝日、3月21日)。
安倍首相は「べらべら何をしゃべっているのか」と恫喝(どうかつ)とも思える発言をしている。
権力を裏切った柳沢さんには、厳しい道があるにもかかわらずの発言(・・)は、「今の政庁では“血を流すことが必要だ”と、自ら血を流す立場にない人間が軽々しく主張しており、元防衛官僚として、そのことに怒りを禁じえない」思いから出されたものである。
そんな折、3年間自衛隊にいた若者が、ひょっこり「百姓体験居候」にやってきた。
「百姓は、思った以上に大変だったが、循環型社会を目指していきます。また友人と来ます」は、心強い。
詩人の野本三吉さんは、「戦争がなくならないのは、軍人が、ロボットのように命令に従い、敵を殺し、自然や文化を破壊する労働者をつくることが必要条件なのだ。このように見てくると、軍人と労働者は、同じ構造上に生きている。この70年いつの間にか、軍人労働ロボットに改造されてきた気がする。
“働く”という行為を、ぼくら自身にとり戻すこと。本当にやりたいことを「仕事」として実現していくことが、戦争に反対することになる」と言う。
全く同感である。あ~す農場もささやかにその場でありたい。

(2015年6月14日)

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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