自給自足の山里から【172】MK新聞連載記事
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MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2013年6月1日号の掲載記事です。
大森昌也さんの執筆です。
青大将、ムカデ、おたまじゃくし王国―縄文のヘビ信仰に思いを馳せる―
「あっ! 青大将(ヘビ)が、4匹!」と、研修生の徹君(30)の声が、家のそばの小川の石垣の方から聞こえる。行くと、2匹はうねうねとまぐりあいの最中である。他の2匹はそわそわと石垣を出入りしている。居候研修生のモン君、つゆさんの娘こうちゃん(2歳)が、徹君の手を握りしめて、じーっと見つめている。しばらくするといなくなった。「みんなおうちに帰った」というと、「うん」とうなずく。
居候研修生の利君(30)は、「部屋にガなどの幼虫が入ってきてかなわん」と網を戸に張る。布団に大きなムカデがいてびっくりしている。
耕さない田んぼには、何千何万ものおたまじゃくしがうじゃうじゃいる。来訪の人は、誰もがびっくり。「あんまり草が生えてないね」というので、「おたまじゃくしが除草してんや」と教えるとびっくり。「土がトロトロで、手がすーっと入る。柔らかい」とびっくり。
おたまじゃくしを狙って、空から、大きなアオサギ、黒いカラス、小鳥たち、地上から青大将、テン、イタチ、タヌキなどにぎやか。
天気がよいと、青大将は道の真ん中で、2mもあろうというのをのばして横たわり、私の通行を邪魔する。石の上では、私と目が合っても知らぬ顔でトグロを巻いている。まぁいいか。忌み嫌うこともなく、じーっとヘビを見つめてる幼い子に感動!である。
1万年つづいた縄文時代に、荒々しくも繊細な土器のヘビ信仰が、すーっと腹におさまる。ヘビがいるということは、自然現象が豊かという象徴である。幼い子に「青大将は我が家あ~す農場の守り神さま」と教える。
藤の花が、咲き乱れる今年の山村
朝、カーテンを開けると、窓に、一幅(ぷく)の絵の世界が飛び込んでくる。今、5月中旬、新緑に紫の藤の花が咲き乱れ流れ、赤い椿がそえる様(風景)に目を奪われ、日々変わって飽きない。今年は、藤の花がひときわ目立つ。息子のケンタは「こんな年は、台風がやってくる」というと、「そうか、藤のつるが木に絡んでいて、台風で倒し、間引きするんや」と納得のモン君である。
「百姓体験居候」でやってきた京都の大学院生は、「ここは、映画館も美術館も音楽ホールもなく、たのしみがないから暮らせない」と言う。そうかなぁ。ホーケッキョのうぐいす、チュチュの小鳥、虫たちの鳴き声、川のせせらぎ、樹々の間を吹く風の音など聴きながら、日々変わる一幅の絵の世界に身を置き、山でわらび、破れ傘、タラの芽、うどなど、野でフキノトウ、フキ、うど、ノビルなど採り、川でサワガニ捕ってのにぎやかで豊かな食卓を楽しむ山村。コンクリートジャングルの都会では味わえない。
植林し放棄の杉桧(ひのき)大きくなり“沈黙の森”
離村の人が、私の家まわりの棚田に、国の補助金が出て植えた杉桧が放棄され、大きくなり、大地に山に陽射さず、“暗い森”が襲う。生きとし生けるものが次第に姿を消す。
国行政に「国の政策でこんなことになった。切ってくれ」と申すが、「私有地なので」と言うだけ。仕方なく、地主にコツコツと話をして、土地を譲ってもらって、この5・6年に若者とコツコツと切り、畑や果樹園にしていっている。これが本当に大変。破壊するのは簡単でも、再生は厳しい困難が待ち受けている。切ったお陰で、少しずつ、生きとし生けるものがかえってきたのである。
そう、山村での“たのしみ”を味わうのは大変なのである。再生への仕事は、今もつづく。
私の村の奥の原生林は、今、クマの生息(せいそく)痕(こん)なく、虫鳥獣たちどこに? 大異変が起こっている。大量消滅している。もちろんヘビにも会わず。“沈黙の森”になっている。
なぜ? その謎、原因は、杉桧の植林である。――と、旧知の日本くまもり協会(西宮に本部、2万2千人の会員)は通信で伝える。
福島のミミズ、チョウに異常
福島の森を思うと、二重に胸が痛む。つくば市の林野庁関連機関の森林総合研究所が、福島のミミズを調べたら、8千ベクレルというとてつもない値が出た。また、チョウのヤマトシジミに、原発由来の放射能による生理的遺伝的損傷が起きている(大滝丈二・琉球大学)。
事故原発で被曝(ばく)労働する人の6割が福島県人。事故で観光、漁林農の仕事を奪われた人たちである。
再稼働させ輸出せんとす輩(やから)を許さず、福島の人に心寄せたい。5月11日から1週間断食。避難している人に、山の恵み届ける。
桃源郷へ。若者の“たたかい”
私は、「都市を滅ぼせ」(中島正さん)の思いに共感し、原発の電気に頼らない暮らしを志し、30年前、都市をさらばし、山村に移住し、賃労働によらず自給自足で、“地球(アース)の明日(あす)を考える”あ~す農場をひらき、6人の子ども、若者を育ててきた。8年前、脱原発の小水力発電をつくった。
あ~す農場は、学校でも塾でもない。“今日は今日の風が吹いた。明日は明日の風が吹く”と、ええかげんなところ。だが若者の来訪あり、今4人の男女と幼子がいる。老いに鞭(むち)打つ。
村にせまりくる“黒い沈黙の森”を押し返さんと、若者たちと杉桧を切り、薪(まき)や製材して板や柱にし、跡地を畑にする。大地に太陽が当たり、生きとし生けるものがよみがえる。若者の笑顔。
50年前は桃源郷だったこの村をよみがえらせるには、50年かそれ以上かかるだろうが、小さな村の“試み”が、全国に、全世界に広がり、若者の“たたかい”が実ることを切に願う。
あ~す農場
兵庫県朝来市和田山町朝日767
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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事
1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)