自給自足の山里から【164】|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【164】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2012年10月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

熊とハチ、猪とカボチャ、鹿の群れ

「あっ! やられた!」とげん(30)。
ミツバチを飼い始めて10年余。巣箱が荒らされている。
今年は農薬の影響か、女王バチの生育よくなく、外から2匹手に入れたが、1匹は死んだ。その上に、熊である。

我が農場を囲むように熊(くま)道(みち)がある。時に出くわす。
大きなお腹をゆすりながらゆったり歩く母熊は、翌年には2頭の子連れて、きびしく動く。
8月、チビらの父親と見られる熊が檻(おり)にかかり、無念にも殺された。

ドングリなど不作の一昨年につづき、猛暑の今年、熊が人里に出てきている。
「あっ! やられている!」とよしみ(32)。
畑のまわりを、トタン・網でしっかり囲むが、収穫寸前の熟して最もうまいカボチャを食べ尽くす。
「恵(めぐ)ちゃん(放射能逃れて移住)の畑もやられた」「あっ! げん兄貴のところも」と嘆くのは、あい(22)。猪の仕業である。

果樹園(梅・柿・栗など)の方で、何やら騒がしい。
網に引っかかったオス鹿が、暴れている。昨年と同じところ、鹿道。
我が猟師ケンタ(32)の出番。「暑い昼は、肉が傷む」と、夕方にみのり(5)、なお(3)連れてやってくる。
目の前で気絶させ、ナイフ1本でみるみるうちにさばいていく。

我が愛犬たちは、ワンワン、キャンキャンとにぎやか。
村の若い百姓で分ける。私も久しぶりに、お肉を味わう。
背ロースは、2~3日天日干し。おいしい。来訪中の福島からヒナンの人と味わい、お酒が進む。

知り合いの猟師(70)は、「先日、山の茶かけた斜面が動く。あれっ、とよく見ると、鹿の群れ。53頭まで数えたが、嫌になってやめた」とあきれ顔である。
猟師も老いて増える鹿。「もう、天敵のオオカミを連れてこにゃ。けど日本オオカミは絶滅。外から入れたら、生態系壊すしなぁ」と困惑気味である。

山村廃(あ)れて、熊が人里へ。山里の再生を!!

ふとテレビ見ていたら、「里山があれて、熊が人里に降りてきた」と指摘していた。
思えばもうだいぶ前から言われていたが、里山・山村の再生への動きはなく、むしろ「こんな山村では、生活できん」と、電気に依る機(き)心(ごころ)あふれる都会に出ていき、山国日本の源・山村・里山はあれていく。

今日、65歳以上が人口の24%を占める日本にあって、65歳以上が半数以上、いやほとんどという「限界集落」が、私の村のまわりには多い。
先日、8月末に、峠越した村の区長が「大森さんとこで“研修”の若者が、うちの村に来てくれた」とお酒持って来訪。

たまたま、関西大学の学生10人が、2泊3日の“研修”(鎌で草刈り、斧(よき)で薪(まき)割り、風呂わかし、カマドでご飯炊き、トリ葬って捌(さば)きチキンカレー、水力発電の水源修理、バイオガス装置に人糞投入など)にやってきていて、さかんに、「うちの村にやってきて。何でもお世話します」とアピールしていた。
さて、この切実な声が届いたであろうか?

同じ頃、但馬(兵庫北部)人として但馬の資源を大切にして但馬のよさを活かし但馬の人々の働く場を見出す活動の第一歩として、“あ~す農場見学”に、但馬夢(ゆめ)テーブル委員会「但馬いかそうめん(面)」グループが、但馬県民局の人らと来訪。さて、どんな“夢”を実現することか?

9月に入って、「日本熊鹿協会」が、高校生3人を含め12人やってきた。
会長の青山まり子さんとは、協会設立以前、教員時代に、生徒連れての「体験学習」以来の付き合い。
1万人の会員が全国にいて活動。都会中心であるが、山村の再生への思いがあっての来訪。愛媛県の“地域協力隊”や、岡山県新見市の“村おこし”の方ら、来訪つづく。

私は、機械によらない不耕起の田んぼ・畑の豊かさ、放し飼いの鶏たちの美しさ、手づくりのパン焼き石窯、ケンタ大工の作品の図書館、小水力発電、バイオガスの青白い炎、そして、同じ村の長男ケンタ・よしみのく(・)ま(・)たろ(・・)牧場、次男げん・りさ子のあさって(・・・・)農園工房、菊地さんのまる(・・)かく(・・)農園など、「実際に山村の再生を!」の縄文百姓の思いが、若い人たちに伝わり、幼い孫へつづく姿を案内する。

巨万のデモが、若者たちの手で

来訪の若者が、毎週金曜日の官邸デモに参加。
友人からも「30年ぶりに、東京でデモした」「久しぶりに熱気にふれた」「若者が、警察機動隊のマイク取って、『サイカドー・ハンタイ!』とシュプレヒコール。私服警官も目を白黒させていた」などの声届く。
6月28日は20万もの人々が参集した。

長崎で、大学教員の後、自給自足の暮らしをしている藤田祐幸さんの教え子の、明治天皇の玄孫(やしゃご)の竹田恒泰さん(37)は、(あっ! テレビのバラエティ番組で拝見した)「原発には愛がない。本来、保守こそ日本の国柄に合わない原発は反対すべき」と書く。
――と友人から教えられる。原発賛成の自民党は、きちんと耳を傾けるべき(!?)。

さて、韓国・フランスなどでは、100万人規模のデモが行われてきた。
「日本ではなぜ行わないの?」の疑問に、韓国の人が、「連合赤軍のようなことがないから」と指摘。

40年前、死体を新聞記者らに見せるために再び埋め直すという非人間的冒とくとしての“連合赤軍事件―同志殺し”は、デモなど社会運動を行う時のトラウマ。
しかし今、そのトラウマも薄れ、乗り越えていくかのよう。
何よりも、人類を危機に陥れる原発・資本主義の99%貧困に直面し、その打破に若者たちの巨万のデモが、この日本でも行われるだろう。隣中国でも若者のデモがつづく。

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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