自給自足の山里から【159】|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【159】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2012年5月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

春、心痛む

山村にも遅い春が一気にやってきた。白い梅の花が、残雪に代わる。
雪のなくなった梅林をついばむにわとり。「コケコッコー」とトキの声が天に向かって山間を響かす。
鮮やかな黄色の山吹、ふきのとうの花が、ピンクの山桜、紫のツツジ、白いコブシらとともに笑う。
厳しいこの冬、烏骨鶏とアイガモのオスが冷たく死す。「なぜオスだけ」と娘のあい。
「オスは弱いからなぁ」と息子のケンタ。愛犬(12歳メス)は咳き込んで心配したが、春元気になり、ほっとす。隣家の92歳の夫婦は耳遠くなり、眼も見えにくくなっていくが、元気に家まわりを騒いで嬉しい。
ブラクサベツに惑わされず、放射能を逃れた若夫婦と友人夫婦の移住も嬉しい。

雪で取水場が崩れていた水力発電も、来訪の若者たちと雪解けの冷たいなか直し、脱原発の思いが動く。バイオガスもささやか炎。
雪でいたんだ屋根の修理、次の冬の薪づくり、田んぼの水路の整備、畑のジャガイモ植え、動物よけの柵づくりらに忙しく、つい無理して腰痛める。
「年齢考えなくては!」と娘に叱られる。高校同級の江田五月議員は「娘さんと百姓やられて、うらやましい」と言うが…。
6人の孫たちも、放射能避けての幼い子と動物に触れたり、山に入ったり、畑仕事手伝ったり。元気ににぎやか。しかし外で遊べない福島の子どもたちのことを思うと心が痛む。

 

脱原発の水力発電の見学相次ぐ―8歳のつくし鶏を捌く―

春めいてくると、見学者・百姓体験居候の来訪が相次ぐ。
昨年のフクシマ原発事故以来、水力発電やメタンガス発生装置(バイオガスシステム)らの見学が増える。
京都精華大学の農的暮らしゼミ(本野一郎教員)の学生たち、私の本『自給自足の山里から』(北斗出版)読んでのフリーター、百姓を志す若者ら、また、私たちを縄文ファーマーとして紹介している『農業のすべてがわかる本』(ナツメ社)を教材とする「さわやかアグリ」(就職支援訓練)の訓練生らである。近在の若者の来訪もあり、嬉しい。
見学者には、私と娘(あい)が農場・村内を案内し、さらに同じ村で百姓のケンタ、げんらも、自分らの暮らしぶりを案内す。
百姓体験居候は、朝、雄鶏の鳴き声で起き、鶏山羊らのエサやり・卵とりし、石窯で焼いた天然酵母パンを食べ、鎌・鍬持って草刈り、耕す。鋸・斧・鉈で木切り、薪割りし、五右衛門風呂を炊き、山菜・野菜ら採って、鶏を葬って、捌いての食事など、あいのもと行う。
8歳の孫のつくしは、包丁を手にして鶏を捌く。学生らはびっくり見学。あいも8才の時はじめて捌く。嬉しい感動である。
夜は、若者相手にお酒が進む。「お父さん! 飲みすぎ」とまたしても娘に叱られる。

 

生きるって、食べるって、暮らすっていいなぁ―あ~す農場のような環をつくりたい!―

来訪の若者たちの感想である。
「訓練生」の健さんは、「長い都会生活の中で、忘れかけていた何かを思い出すきっかけとなりました。また、手伝いさせてください」。
市島町で就農の忍さんは「自家発電、勉強になりました。近くなので、また、訪問します」と。

精華大の学生は「生きるっていいなぁ。暮らすっていいなぁ。温かいこたつに足を入れて温かいごはんをみんなで食べる幸せ。生きているもの全てに感謝」(さやか)。
「自分の甘えがわかったような気がします。身体は、なんか違う部分で、楽になりました。たくさん笑ったなぁ」(めぐみ)。
「おいしいごはん。胃と腸が喜んでいるのがわかります」(里美)。
「人や家は少ないけど、鳥や動物の鳴き声とが、水の音、子どもたちの笑い声がたくさん聞こえて、とても思っていた以上ににぎやかで温かい場所。自給自足のなかで人と自然の環を感じ、普段の使い捨ての生活との差の大きさを実感しました。私は人と人の環をつくることが夢です。あ~す農場のような環をつくっていきたい」(文乃)。

 

おとうさんにどなられた。はくりょくあった―若い人が世の中変えなくちゃ―

あいの友人は、「おたまじゃくしの卵がうじゃうじゃ。小さいおたまじゃくしがかわいい。大きいおたまじゃくしもかわいい。でも、あいちゃん、カエルが苦手です。でもあいちゃんの料理はおいしい。おとうさんにどなられた、はくりょくあった。さて、かえるが鳴くから尼崎に帰らなくては。メェ~メェ~」(よのすけ)
「大森さんの本読んで、直観に従ってきました。こちらの生活や人の出会いのなかで、私の価値観に多大な影響を与える日々でした。本当によかった」(つよし)
「あ~す農場には、私が実現したいことがあります。自分の村をつくりたい。あ~すのくらしを自分のなかにとり入れたい」(武志)
「子どもたちいっぱいでたのしかった。田畑・鶏・山羊・みつばち・手芸・お料理・子育てら山の暮らしは、幸せいっぱい楽しい夢(よしえ)
「娘らは、動物たちのエサやり、野草摘みなど通して、確実に、来るたびに何か大切なものを学びとっている」(わかな)

三里塚空港反対同盟の戸村一作さんの親戚という娘さんが、千葉から引越し。
「フクシマ、東ティモール、キューバのこと、考えなければならないことをたくさん気づかせていただきました。お父さんの『若い世代が日本を変えていかなくちゃいけない』ということばがすごく印象にのこっています」(まどか)。
話の内容は次に!なんて。(2012年4月17日)

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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