自給自足の山里から【140】「命をいただいて生きている」|MK新聞連載記事
目次
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2010年10月1日号の掲載記事です。
大森昌也さんの執筆です。
命をいただいて生きている
森の王者熊さんは、今
今年の夏、初秋は異常な高温が続く。生きとし生けるものは悲鳴。森林は「ナラ枯れ」(注①)で赤茶色に染まり、痛々しい。森の王者・熊は、実り少なく里へ降りる。村の庭先の柿の木に熊座(枝を折って座って食べる場)が目立つ。豊岡の方では「肩をトントンたたくので振り返ったら熊だった」。
神戸の六甲でも猪の人への被害が伝えられるが、我が田んぼに柵を破って乱入。踏み荒らされ、泥だらけの稲たちを見るのが辛い。
耕さず、冬も水を貯え、化学肥料・農薬・除草剤使わず、鎌・鍬で除草畦草刈りし、成苗を手植え(注②)し、見事に育つ。黙々と泥を落とし、起こす娘たち。
かつては山村におられた方が「我ら猪に追い出されたんや」と言ったことばが鮮やかによみがえる。
平均65歳、260万人―朝日新聞1面トップ
「農業人口5年で22%減」「平均65歳」「下落率最大、260万人」の見出しが9月8日の朝日新聞1面トップにおどる。
「農村の高齢化と担い手不足が加速度的に進行。戦後のの行政策の行き詰まりが見てとれる」
「0.5ヘクタール未満の農家の1人当たりの平均時給は約300円で、最低賃金の全国平均の半分以下。0.5ヘクタール未満は100円の赤字だ。“農業だけでは生活できない”ことが根幹にある」
と記事(古屋聡一)は述べる。危機感は伝わる。
この先どうなるのか?「85年には543万人が25年間で半減」したというが、我が村ではその間、85年に13軒(平均65歳)が米作りしていたが、25年経て今は1軒(84歳)である。日本の明日を先取りしている。
アメリカに尽くしたけど、もう嫌
敗戦後しばらくは、農人口は70%だったが、今では2%である。なぜこうも人々は大地・農から離れてしまったのだろう。
45年敗戦で戦地から若者が村に帰り、天皇という天蓋(頭の上のカサ)がとれ、解放感にあふれ、農・百姓に励み、祭りも盛ん。
それが50年の朝鮮戦争を機に、都会に出ていくようになった。私の母もその1人である。
アメリカの巧妙な支配戦略によって、「お百姓さん」が60年代には「どん百姓」になり、今では百姓は禁句である。「米食べると頭悪くなる」と胃袋はアメリカの小麦・大豆らに占領され、今や叱られた子が「お母さんなんかいらない、コンビニがある」と言う時代。
坂本龍一さん(音楽家)は「アメリカにレイプされて60年間尽くしたけど、もう嫌って感じで自立しようとしている」(「縄文聖地巡礼」)と指摘する。
そもそも農は、工業のように業として成り立つものではない。金で換算できないものをつくっている。農を工業化するのは無理である。
国の補助金や大型機械に依らず、大地に依って農を志す以外にない。私が百姓始めた25年前に比べ、自立した農・百姓を志す若者が生まれてきている。ここに希望!
生命をいただいて生きている
そんな折、9月15~17日、2泊3日で関西大学・京都教育大学の学生14人、教員ら4人総勢18人が「百姓体験」にやってくる。
スリムというか、細くひょろっとして、ちっと背を押すと折れそう。大丈夫かなぁ。
台所のメタンガスコンロ用のバイオガス装置に豚糞を入れ、畑から野菜採り、料理する。畦草刈りする。薪割って、五右衛門風呂を焚き、カマドでご飯を炊く。これらは同世代のあい(20歳)・れい(20歳)・ちえ(24歳)が手ほどきする。学生らは「なんで私らこんなことしなくてはならないの?」という感じで、動きはにぶい。「ボォーとしないで」と叱るあい。学生は「ボクは16歳で、あいさんは46歳」なんて失礼なこと言う。あいは16歳の時百姓をこなす。
鶏さばきする。なかなかやろうとしない。「頭ばっかりで、理屈ばっかり言ってもう嫌や。考えすぎやねん。当たり前のことなのになぁ」とイラつくあい。人間は他の生命をいただいて生きている。なんとか娘たちが手本示し、2人が首をはねる。毛をむしり解体する。ずーと手で顔を隠している者もいた。けど夕食のチキンカレーはよく食べていた。
私は学生4人と川の草刈り。か細い手に握られて、草刈らず土をたたかれて鎌もびっくり。4人で私1人分もできない。きれいになって石垣も川も喜んでいるやろ」と言うが反応にぶく。労働の喜びを味わえない不幸。
改めて若者たちは大地から離れ、身も心もコンクリートジャングルのコンピューター社会に適応するようになっていることを知る。
帰り際、「希望の星です」の楠教授のことばが嬉しい。
200年前のフランケンシュタイン
学生らが帰った後、『フランケンシュタイン』(講談社)を読んだ。19歳の女性が書く。
天才科学者フランケンシュタインが人造人間を作る。「私の名は、全人類の感謝の念とともに、神として歴史に刻まれるだろう」の思い。しかし「怪物が私を殺しにくる。造らなければよかった」と公開。
怪物は、遺体の前で「復讐に走った。それが悪いことと知っていても、もう自分で自分を止めることができなかった。こうなるのが嫌なら俺など生み出さなければよかったんだ!」と絶叫。
フランケンシュタインとは怪物造った科学者の名前。近代の始まる200年前の作品。
我が若者よ! 大地を、鎌を捨てて、フランケンシュタインになるのか!? 熊さんに思いを馳せて断食。今日で6日目。9月23日。
注①:「ナラ枯れ」はナラやカシらの広葉樹が、カシナガ虫によって集団で枯死する伝染病。
注②:『究極の田んぼ』岩沢信夫(日本経済新聞出版社)を参照。
あ~す農場
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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事
1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)