自給自足の山里から【90】「食卓の上の五月」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2006年6月16日号の掲載記事です。
大森昌也さんの執筆です。
食卓の上の五月
五月は新緑あおく輝く。青春の季節。雑木の山々は一面美しい鮮やかな黄緑に覆われ、そっと紫の藤が顔をのぞかせ微笑む。
道端では空木のピンクが、例年になく、満開の桜と思うばかりに笑いこける。しかし、うぐいすの見事な沢渡りのホーケキョー、ほととぎすのトーキョートキョキョクの鳴き声は冴えない。鹿・猪らも元気ない。
アサダエッグ(浅田会長夫妻は自死)の後にやってきた関西ポートリー(コープ神戸に出荷)には、黒いカラスが群がり、死んだ鹿らをつつく。
目に花、耳に鳥の声、手に鎌・鍬持って大地に立つが、鼻につくのは、この巨大養鶏工場(四〇数万羽)からの頭の痛くなる悪臭である。コープ神戸の卵を食べているという都会の人が来訪し、「ようこんなところに住んでいるなぁ」とおっしゃる。
知人の猟師は、「今年の大雪で、多くのケモノ死んだなあ。野菜の生育ももうひとつだなあ。空木の花ようけ咲いているけど、こんな年は冷夏や。一日の温度差が二〇度の異常や。身体には気つけなせェ」。また隣町の鍼師のTさんからも「漢方の本にも60年に一度の冷夏とある。からだを冷やさないように」と忠告される。
五月連休に、小学生から高校・大学・院生、行政職員、会社員、派遣社員、求職中、大学教員ら二一人(男一一人、女一〇人)が来訪し、一日~七日間「体験居候」する。ほとんどが二〇歳代の若者で、5月2日19人、5月3日16人。あ~す農場だけでは大変。四月から自立したケンタ(27)、ユキト(22)、げん(24)の「あさって農園工房」の四軒で分けて受け入れる。
鶏・豚・山羊の世話、畑の草取り、バイオガスプラントに豚糞人糞投入、五右衛門風呂焚き等こなしつつ、30年放棄された田(50アール)を元にかえすのに挑戦する。
ツルハシとスコップですすきの株を掘り起こしていく。泥と汗にまみれ、手のひらにまめつくり、アゴがあがる。
ケンタ・ゲンら苦笑。でもなんとか、21人の人力パワーで大方除く。60年代の自給自足の山里の風景に戻るのは時間かかるが、一歩を踏み出した。
田中克彦さん(隣町出身の言語学者)から「東京にもこんな山村があります」と朝日新聞(5/13)の記事送られてくる。「都は8千万円であきる野市横沢入地区の里山機能回復・保全」に市民が連休に汗を流したと伝えている。
さて、布団を干し、食事の用意。朝食は石窯で焼いた天然酵母パン、昼はユキトの手打ち天ぷらうどん、夕食は我が玄米をカマドで炊く。味噌汁は自家製味噌に、物々交換の煮干しとわかめ、三つ葉。天ぷらはウド、タラの芽、よもぎ。ノビル・菜の花・わらびのおひたし、山ブキの佃煮、ニラと自然卵と我が豚ベーコンの炒め物など。
「都会で食べたら高いやろなあ」「こげたご飯食べるの初めて」「あいちゃん・れいちゃん(双子16歳)が全てやってくれて、ようやく食事にありつけた。こんな子たち都会ではいない。もう感激」と二〇代後半の独身女性たち。あい・れいは大変だが、よくやっている。
皆さん、「都会では、朝は菓子パンとコーヒー、昼はスパゲティ、夜はコンビニ弁当って具合やなぁ」なんておっしゃる。かつて、丈夫で元気な日本人を育んできたお米・野菜・小魚を食べず、アメリカの戦略に飲み込まれての薬まみれの小麦、「狂牛病」の肉・乳を食べ飲み、大相撲の横綱はモンゴルである。
とは言うものの、「驚きや感動の連続でした。とても楽しかった。百姓を志すぞ」(陽子さん)、「食べ物の大切さ、おいしさ、家族の温かさ、協力すること、実感することばかりでした。自給自足の百姓やりたい」(優子さん)等の声も届く。
本『自給自足の山里から』(北斗出版)を読んでテレビ(朝日放送)の取材があった。
『おはようコールABC』の“ヤマケンが行く!”(5月15日朝5時45分)のコーナーである。
「学生運動・労働運動、部落解放運動やってきた方が、20年前廃村の危機にある山村に移住」「結局、本当の生き方が農業ということでやってきたの?」と山本健治(元高槻市議・大阪府議)が聞く。
「いや、農業でなく百姓、百の仕事・職をこなす」「山国日本の源山村が滅びゆくのは、日本が滅びるのに通じる。山村・日本の再生は百姓からである」と私が答えていた。
「農を滅ぼすは亡国という言葉があるが、この人らの移住でこの村は生き残った。団塊の世代は帰農なんて甘ちょろいこと言っておるが、山・自然を取り戻しに行こう」と山村への移住を誘っている。さて、どうなることやら。
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1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
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