自給自足の山里から【89】「ちえのキューバ報告」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【89】「ちえのキューバ報告」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2006年5月16日号の掲載記事です。

大森ちえさんと昌也さんの執筆です。

ちえのキューバ報告

今年は四月初め雪が降り積もり、春が遅く気もむが、ようやくやってきた。白い梅に続き、ピンクと白の桜・桃、赤紫のツツジ、黄色の山ブキなど、一斉に咲く。
樹々の新芽の黄緑とともに、私たちの目を楽しませ心おどる。「こんな年めずらしい」と言うお年寄りも、田畑にいそしむ。ウグイスら野鳥もさえずり、鹿たちの動き盛ん。ツバメが玄関に巣作り、空中にツバメ返しを見せる。
「あっ! 空が黄色くかすんで、太陽が月や。中国から黄砂が飛んできた!」と驚くちえ(20)。
「中国はチベットを抑え、六割を占める農村を差別し、急激な工業化で環境を汚しているからなぁ」とは、近くのソバ屋の主人の弁。「そういえば、二十年前のチェルノブイリ原発事故の時、放射能が飛んできたなぁ。こいつは目に見えないからやっかい」とはケンタ(27)。あの四月二六日午前一時過ぎのこと。その昼過ぎにちえは生まれる。
六十万人のガン死が予想され、四十万人が家を離れ、五百の村や町が消える。「和歌山で三人に一人が新住民、百四十四人も移住した山村がある」と知人から、朝日新聞(4・16)が送られる。「ここは半数が新住民やなぁ」と、結婚し村内に居を構え、つくし君(2)のげん(24)は言う。「新住民といっても、子どもが都会に出て、百姓やらんで老夫婦だけ残るんじゃなぁ」とぼやく。連休には二十人近い人があ~す農場に来る。
春、子たちの進学が話題である。皆さん「学校にやらんと仕事につけんからなぁ」と言う。あい・れい(16)は通信制高校をやめた。高校出たのはケンタだけ。「お父さんは大学出たのに私らを学校に行かせず、なんという親やと思われているよ」と気遣う。
「お父さんは大学に入ったけど、生活のためアルバイトし、山岳部で四季折々山に登り、学生・労働運動に精を出し、ほとんど教室に出なかった。いろんな商いをやってきたブラクの友人は『大森は、大学やっていたんやって!』と言われたのが印象的やなぁ」と言うと、「勉強しなかったんや」と言うので、「いや!教室でないところで、本当の勉強をしたんや」と返す。
ちえは、十六歳の頃から急に本を読み勉強し出す。ケンタの東ティモールにつづき、キューバに行く。以下は、その報告である。

強い日差しが眩しい。ドキドキの入国は、やさしい笑顔のハンコ。遠かったなぁ、カリブ海の小さな島国に来たんだ!
バスに乗って外を見ると、ヒッチハイクする若い女の子たち、大丈夫かなとちょっと思うが、車を持っている人は、持ってない人を乗せるのが当然になっているという。街に入ると、日陰でひと休み出来る大きな木が道路に並び、走っている人無く、皆ゆっくり。黒い肌、白い肌の人たちがいるが、差別を感じない。
私は、有機農業を国を挙げてやり、バイオガスもやっていると聞き、十代最後には行ってみたいと思った。キューバに行くと言うと、「えっ! 大丈夫なの?」と言われた。でも、牛も馬も子どももお年寄りも、のんびりしていて、車の事故も路上の喧嘩も見なかった。この国を大好きになった。
レストランに入ると歌をうたう人がいる。サルサと言ったかな、とってもにぎやかで楽しい食事になる。街に古本屋があり、キューバの使徒ホセ・マルティやチェ・ゲバラの本などがある。フィデル・カストロさんのハガキもあったが、街には看板はない。大きなおじさんと呼ばれ、人気はすごい。
ティータイム、キューバコーヒーは苦いが砂糖がたくさん入っているので甘い。ここちよい空間と風と一緒に子どもの声がいい。楽しそうな子どもたち。ん? 隣は小学校だったんだ! 分からなかった。溶け込んでいて気がつかなかった。うれしくて笑った。医者は地域に溶け込み、いばってない。チェルノブイリで被害を受けた子を受け入れ、無料で治療、あまり知られていないが、世界で何かあると出かけている。
ホテルの庭に出て、海を眺めながら考える。きれいな青い海、やさしい人々。何を考えていたんだっけ!そう、日本は豊かで平和な国だけど、本当の豊かさはここにある。中学一年の時ネパールに行った。空港出てバスに乗ろうとした時、子どもがどっと来て、小さな手を差し出す。一生忘れられない。あの時からずーっと本当の幸せをさがしている。十八歳の時フィリピンで貧富の差のひどさを見た! 自分の食べる物は自分で作り、他国からとらない! 世界で苦しんでいる子どもたちがいるのに幸せなんて言えない感じられない。街を歩く女性と目と目が合うとウインク。思わず笑いがこぼれる。やさしさがあふれている。
四月二六日に二十歳になった。この二十年に原発は二十三基も増える。青森では再処理工場が動き、海と大地、空気を汚し殺していく。家の前の小川の流れる音を聞き、空を星を見る。時々明日が真暗くなる。ツツジの花がきれい、うれしくなった。この日、私のために、家族皆で、ごちそうやケーキをつくってくれた。幸せを感じた。春だけど冷たい風が吹く、けどお日さまはあったかい。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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