エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【366】|MK新聞連載記事

よみもの
エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【366】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2018年10月1日号の掲載記事です。

 

本だけ眺めて暮らしたい

「電子辞書は、語句を検索窓に入力し、決定ボタンを押せば一発でその意味が表示される」。
……というようなことは実際にはなく、例えば複数の国語辞典や、各種用語辞典、百科事典などをいくつも搭載した電子辞書なら、検索語がヒットしたコンテンツが列挙(漢字表記と、語釈や解説の冒頭が一部表示)され、そのいずれかを選んで決定ボタンを押すと、内容が表示される。
……という説明も実は正確ではなくて、インクリメンタルサーチを採用している機種は、検索窓にカナを一文字入力するたびに、その検索結果を逐次、表示していく。
……などと、あえて持って回った言い方をしたが、紙の本の辞書のように、ページをめくりながら行ったり来たりして該当のページを探し当て、次はそのページの中の見出し語を目で飛ばし飛ばし探して、ようやくたどり着くのとは違って、電子辞書は機器が瞬時に返してくる検索結果を見るだけという便利なツールである、というのは確かにその通りだ。

ゆえにか、逆に紙の辞書の良いところとして「目的の語を引いたあとに、その前後の語を読んでみたり、閉じる前にページをパラパラめくって目についた語を拾ったりすれば語彙がさらに広がる。ピンポイントで目的だけをゲットする電子辞書にはない楽しみだ」などという人がいる。
しばしば耳にする物言いだ。しかし、こんなことを言うのは、実際に電子辞書を使ったことがない人ではないか。

電子辞書の語釈は、関連項目がリンクされていてワンタッチで参照することができる。また、リンクがなくても、語釈の中に気になった語があればタッチペンで選択するだけでジャンプ機能によって引くことができる。
それに、インクリメンタルサーチは検索語句だけでなく、その前後の候補も表示されるのはもちろん、冒頭に説明した通り、電子辞書はその仕組みがゆえに、脇道を散策したり、思いがけない未知の語を知るという点では、むしろ紙の本の辞書よりも向いている。

前述のようなことを主張する人を批判しようというのではない。
電子辞書を使ったことがないのに(使っても?)なぜそんなセリフを口にするのか、したいのか、それが興味深いのだ。
街の本屋とネット書店で購入する際の対比でも同様のことを言う人がいる。目的以外の本との出会い。パターンである。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

この記事が気に入ったらSNSでシェアしよう!

関連記事

まだ知らない京都に出会う、
特別な旅行体験をラインナップ

MKタクシーでは様々な京都旅コンテンツを
ご用意しています。