エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【355】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【355】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2017年11月1日号の掲載記事です。

 

本だけ眺めて暮らしたい

八十八歳で亡くなったおばあちゃんは生前、テレビを観ているときにアナウンサーや司会者の言葉を復唱することがよくあった。しかも、特定の単語に限って。
自分が関心のある事柄や人の名――というのではなく、それらの発音、響きをおもしろがっているようだった。
例えば、天気予報で使われる気圧の単位「ヘクトパスカル」。
おばあちゃんはそれを独り言でつぶやくようにではなく、一音一音区切りながら、まるで漫才のツッコミのように、力むように復唱する。
「『ヘクトパスカル』て」という感じで。
他にも、「マンギョンボンゴウ」とか「ゴーエードー」とか「アサゴエゴエ」などは、必ず復唱していた。

また、ある言葉の響きがおばあちゃん独自の琴線に触れ、かつ、それが初めて耳にする言葉だった場合は、私に質問してくることもあった。
観ていたテレビからこちらに顔を突然向けて、「『モンテッソーリ』って、何?」と。
そう言えば私も、高校の教科書なんかに出てきた、発音の響きがおもしろい単語は、今では、それが何なのか全く思い出せないのに、言葉だけは憶えているものがいくつかある。
例えば「モホロビチッチ不連続面、略してモホ面」とか。
もし、今、おばあちゃんが生きていたら、「ダレノガレ」とか「ポンピリオ」とか「トリバゴ」とか「ゾゾタウン」なんかを復唱するんじゃないか。
また、振り返って「『サブスクリプション』って何?」と、私に質問するに違いない。

ところで、小池百合子東京都知事が記者会見などで「ルー大柴」並みにカタカナ語を連発するとメディアやネットで茶化されたり、真顔で批判(お決まりのカタカナ語批判って凡庸!)されたりしている。
そう、「ソーシャルファーム」とか「ホイッスルブロワ」とか「ウィズドロウ」とか。
でも、おばあちゃんのセンス(これもカタカナ語か)からすると、小池ワード(これも?)はきっと、復唱されずスルー(もひとつ)されてしまう、何のひっかかりもない言葉だろうな、と想像したりする。
で、「ワイズスペンディング」って何?

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

 

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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