山の一家*葉根舎「葉根たより」【11】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、山の一家*葉根舎(はねや)の「葉根たより」とその前身記事を1998年12月16日から連載しています。
MK新聞2017年11月1日号の掲載記事です。
大森梨沙子さんの執筆です。
葉根たより
すっかり秋が深まり、草木の葉は青々とした緑から渋みのある色合いへ…
そして、ほんのり色づき始めました。
秋の花や実は妖艶(ようえん)なものが多く、深い赤や紫色が印象的です。
ツリフネ草、彼岸花、よめな、みぞそば、ミズヒキ、あけびや野ぶどう…。
「菊花開(きくのはなひらく)」
菊の花は山にないけれど、キク科のよめなを愛で、重陽の節句(長寿を祈って菊を飾ったので、菊節句とも)を過ごそうかと思います。
「蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)」
虫の音の聞き分けはまだまだだけれど、今も窓からコロコロと軽やかな声が聴こえてきます。
十月下旬には「霜始降(しもはじめてふる)」、うちの山の初霜は十一月下旬頃ですが、もう降りる地域もあるのかな、そんなに早いのは大変だな、と思いをはせます。
でも、もうそんな季節なのだと思うと、寒い冬に向けて身体を締めていきたくなります。
十一月に入れば、すぐに立冬です。
その前二週間は秋の土用なので、また食に気をつける時期です。
この時期は、呼吸器や皮膚に症状が出やすくなります。甘いもの、冷たいもの、乳製品、油物は控えて、ごはん、お味噌汁、お漬物といった素食、少食でよく噛んで食べましょう。
食欲の秋、つい秋の実りを食べ過ぎてしまいますが、身体もしっかり動かしながら、いい季節にしていきたいですね。
<稲刈り>
私たちは稲刈りに汗を流す日々。
数年前までは手刈りでしていましたが、今は手押しのバインダーで二列ずつ刈り、稲木にかけて天日干しをしています。
小さな機械も使わずに手仕事のみでできたら理想的ですが、村に田んぼをする人がいない今、そこにこだわるよりも、荒れる田を増やさないことの方が大切だと思い、臨機応変に動き、村を守っていきたいと思っています。
たんたんとした仕事ですが、隅の方は手刈りして束ねたり、一輪車で稲を稲木まで運んだり、結構体力仕事で、あっという間に日が暮れてしまいます。
美しい夕暮れはご褒美のようです。
平日は夫婦で穏やかに、土日は子供たちとわいわい、おやつをたっぷり持って田んぼへ。
どちらもそれぞれに楽しく、味わい深いです。農作業の中で感じとれる子供の成長も毎年の楽しみです。
<田畑の宝探し>
農作業中には、草や土の様子や虫の声、秋の風など毎年同じようで、全く違う季節を感じます。
たっぷり季節を感じとれる農作業、深く秋を身体に染み込ませ、絵ににじませたいと、気がつくとつい絵のことを考えています。
そして、描きたくなるものが必ず田畑には隠れています。
その時、その絵を描けたら最高なのですが、忙しい秋、なかなかそうもいかず、どんな過ごし方をしたらそれが叶うか、頭をひねる毎日です。
今はその時の感覚を忘れないようにスケッチし、時間探し。
この暮らしだからこそ、描けるものを追求する日々です。
<秋の実りたち>
今年は大きな田を一枚、猪にやられてしまいましたが、前ほど落ち込まずに乗り越えることができました。
全体的によく実ったこともあるけれど、鹿や猪に何度もやられてきたため、精神力を鍛えられたようにも思います(笑)。
春の気温が低かったせいか、しょうがの出来はいま一歩ですが、里芋とまこも茸もよく実りました。
栗もなり年のようで、子供たちが毎日学校帰りに拾ってきてくれました。
お風呂の焚口で焼き栗にして、割ったらまだ熱すぎて、大爆発!
みんなで大笑いしたり、渋皮煮にして保存し、皮は草木染にして淡い桃色の衣を作ったり、イガや葉からはグレーの衣を作ったり。栗のめぐみをたっぷりいただきました。
縁側をふと見るとヤマカカシが! なんてことも…
こんなに家の近くに現れるのは初めて。草刈りをして、もっときれいにしなくては。
でも、真っ黒のお目目がかわいらしく、すっと立つ姿にやはり生き物の美しさを感じました。
シロザの実やしょうがの佃煮、野草茶、腰痛に効く野ぶどうの焼酎漬けなど、保存食作りに忙しい秋。
秋のからっとしたお日様は、なぜか何か干して保存食を作らなくっちゃ! という気分にさせられます。
それは、この日差しに遺伝子が反応しているようで、本来あるべき人間の秋の行いのように感じられ、なんだかうれしくなります。
冬に向けて蓄えるよろこび、ぜひ皆さまも何か手作りして、美しい秋を満喫してください。
(2017年10月11日記)
■葉根舎
haneya8011@gmail.com
HP:https://www.yamano-haneya.com
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