フットハットがゆく【338】「本能」|MK新聞連載記事

よみもの
フットハットがゆく【338】「本能」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2022年2月1日号の掲載記事です。

 

本能

先日、飼っているヤギが赤ちゃんを生みました。
真冬の寒い時期に生まれるとは思っていなかったので驚きました。
日本の野生の草食動物、例えばニホンジカの繁殖期は秋です。
冬の間、食料が乏しい時期が妊娠期間。春になって食べ物が豊富になった頃に出産。母親は草をたくさん食べて母乳を出し、やがて乳離れした子どもたちにもたっぷりの植物が待っている、という構図です。
これを間違って真冬に子どもを生んでしまったら、体温調整の難しい乳児が寒さで死んでしまったり、食料が乏しく母親の乳が出ない、子どもが乳離れしても食べる植物がない、ということになります。
こうならないように、夏が終わって気温が下がり始めた頃に、さかりが来るように本能的に調整されているのです。
ところがうちのヤギさんは野生動物ではなく家畜の部類になるので、本能を失っているというか、オスが年中さかっているというか、無計画にも厳寒の真冬に出産してしまいました。

 

おかげで、子ヤギを寒さから守るための小屋の暖房代にものすごい電気代がかかり、牧草を必要以上に購入して餌代もかかり、ヤギの無計画のせいで、大した出費です。
でも、ペットは飼い主に似る、ともいいますし、僕が無計画にヤギの飼育をしたのが間違いだったともいえます。
そもそも、僕は田舎の半自給自足生活に憧れ、ヤギのミルクを搾ってヤギチーズを作る、という夢の一つがあったので、乳を採るためには妊娠しなければいけませんので、繁殖はさせようと考えておりました。
しかしヤギたちが家畜化して繁殖期の本能を失っているとは知らなかったので、予期せぬ時期に出産させてしまいました。
わかっていれば、交配時期を管理してオスとメスの小屋を隔離する、などの手が打てたはずです。
僕が無能だから、動物にも苦労をかけてしまいます。暖房代とかさばる餌代は、自己責任と反省しております。
人間がヤギを家畜化する中で奪った本能のせいで、ヤギがしでかしたことに関しては、人間の僕が責任を持って対処する義務があるというものです。
にしても、生まれた子ヤギは本当に可愛く、毎日癒されて、生まれてくれてありがとう! と、思っております。

 

余談ですが、僕はニワトリも飼っていますが、彼女たちもある本能を失っています。
毎日のように卵を生んでくれるのですが、それを温めるという本能を失っております。
野生だった頃のニワトリは、卵を温め始めると何かのホルモンが働いて、ヒナがかえるまで次の卵を生まなくなります。
卵をたくさん生めるように人間に家禽として改良される中で母性本能を失い、年間300個もの卵を生めるようになったのです。
ただ先日、人工孵化させたヒヨコと親鶏を対面させた翌日、一羽のめんどりが自分の生んだ卵を温め始めました。
結局たった一日で放棄してしまいましたが、体の奥のどこかに、わずかのわずかに母性本能が残っていたのだと思うと、嬉しいような寂しいような、複雑な思いになりました。

 

田舎暮らし公開中! YouTube『塩見多一郎』で検索!

 

 

MK新聞について

 

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

 

フットハット バックナンバー

この記事が気に入ったらSNSでシェアしよう!

関連記事

まだ知らない京都に出会う、
特別な旅行体験をラインナップ

MKタクシーでは様々な京都旅コンテンツを
ご用意しています。