フットハットがゆく【325】「暗闇のオカリナ」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2020年12月1日号の掲載記事です。
暗闇のオカリナ
1年前、田舎に引っ越してすぐに3,000円ほどの陶器製のオカリナを買いました。
昔見た『となりのトトロ』というアニメで、トトロが森でオカリナのようなものをポーポーと吹いている場面がありました。
そんなシーンに憧れて、田舎の山で吹くためにオカリナを買いました。
山は音が響くので、オカリナの音色もいい感じに膨らみます。が、曲が吹ける腕はなく、単純な音階を鳴らして楽しんでいました。
ある時、近くの文化センターでオカリナ教室が開催されていると知り、通おうか、と思ったらコロナが始まり…。
それからしばらくオカリナから遠ざかっていたのですが、最近また練習をはじめました。
陶器製のものは落とした拍子に割れてしまい、3,000円ほどのプラスチック製のものを買い直しました。
生活費を稼ぐために夜勤のアルバイトをしているのですが、コロナのせいで暇で、暇でしようがないので、その時間にオカリナの練習をしたりしています。
下手ながら吹ける曲のレパートリーも30曲以上になりました。休みの日はビール片手に山に入って、飲みながら吹いたりしています。
最近は日が暮れるのが早くなり、5時半に山に入ると6時には真っ暗です。
真っ暗な中、ほろ酔い気分で吹くのが好きです。
暗い山に一人で怖くないのかとよく聞かれます。
この辺りでは夜、イノシシ、シカ、タヌキ、アナグマ、アライグマなどを見かけますが、基本、人間と遭遇した場合向こうが逃げていきます。
ディズニーのアニメ『眠れる森の美女』では、美しいオーロラ姫が森で歌を歌うと小鳥や可愛い小動物たちが集まってきますが、僕が山でオカリナを吹くと、カラスがギャァとけたたましく鳴いて、シカがピーッコンッと警戒音を発します。
ちなみに飼っている動物にオカリナを聴かせた場合、ヤギとネコは完全無視、ニワトリは一斉に首を振って不快感を示し、思わずジャイアンの歌を聴くのび太君たちの姿を思い出してしまいました。
ニワトリはオカリナの波長が苦手なようです。
害獣と呼ばれる動物が人里近くをうろつくようになったのは、人が山に入らなくなったので生活範囲を広げたのだといわれています。
僕が山に入ってオカリナを吹けば、いろいろな動物が逃げていくかもしれません。
ネズミの侵入を防ぐための超音波を発する機械が売られていますが、僕のオカリナにもそういう忌避的効果があるのでしょうか? まぁとにかく向こうが逃げるので、真っ暗な山で一人オカリナを吹いていても怖くない、ということになります。
真っ暗な山で怖いのは、昨日なかった場所にイノシシの掘った穴があったりするので、足を取られて捻挫をすることです。
あと出会い頭に遭遇すると驚いて突進され、キバやツノをひっかけられてケガをしたりすることも…。
暗闇では視覚が消される分、嗅覚の感度が上がり、獣が近くにいると動物園のような匂いを感じることができます。
この場合は警戒レベルを上げます。ビールを飲んでいると用を足したくなるので、わざと獣道に小をし、この山には人間がいるのだぞと、マーキングで知らせたりしています。
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