京都国立博物館「京のかたな 匠のわざと雅のこころ」タクシー会社向け特別観賞会レポート

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京都国立博物館「京のかたな 匠のわざと雅のこころ」タクシー会社向け特別観賞会レポート

京都国立博物館では、MKタクシーをはじめとするタクシー会社対象に特別展の特別鑑賞会を開催することがあります。
2018年に開催された特別展「京のかたな展」のタクシー会社を対象とした特別観賞会のレポートです。
特別鑑賞会は、担当研究員による30分の講演内容と、貸切での自由観覧で構成されます。
閉館後の貸切なので、開催期間中は早朝より長蛇の列ができている人気の展示を、待ち時間ゼロで見ることができます。

 

 

特別展「京のかたな 匠の技と雅の心」の概要

会期  2018年9月29日(土)~11月25日(日)
休館日 月曜日
時間  9:30~18:00(入館は17:30)
金・土は20:00まで(入館は19:30)
観覧料 1,500円

公式ホームページ:https://www.kyohaku.go.jp/jp/special/koremade/katana_2018.html

 

タクシー会社向けの特別鑑賞会とは

 

一般入口とは別の通用門より平成知新館へと入ります。

一般入口とは別の通用門より平成知新館へと入ります。

京都国立博物館では、広報活動の一環としてタクシー会社を対象に特別観賞会を実施しています。
今回は、MKタクシーから参加の47名を含めてヤサカタクシーとあわせて約100人が参加しました。
特別展「京のかたな」を担当した研究員の末兼俊彦氏による30分の講義と、60分の特別展観賞の計1.5時間の内容です。

18:00の閉館直前に入館。まだ売店はにぎわっています。

18:00の閉館直前に入館。まだ売店はにぎわっています。

18:00~18:30 講演 特別展「京のかたな-匠のわざと雅のこころ-」について
18:30~19:30 特別展観賞

会場は、地下一階にある講堂です。
ドライバーだけでなく、セールス担当者、広報担当者も参加しています。
若い女性ドライバーの姿が目立つのも意外です。

 

担当学芸員による講演レポート

特別展「京のかたな」を担当した、学芸部工芸室主任研究員である末兼俊彦氏の講演内容をレポートします。
特別展の展示内容と重複する部分は省略します。
講演ならではの情報と熱い思いのみを記載します。

 

講演会の配布資料

今回の特別展で作成したパンフレットは、皆さんから大変好評をいただいています。
通常は行わないコンペ形式でデザインを決定しました
一見すると、メイン展示のひとつの「三日月宗近(みかづきむねちか)」にちなんで三日月をかたどっているように見えますが、これは二十六夜月です。
デザイナーの方になぜ三日月ではないのか理由を聞くと、「C」字形の方がデザイン的にしっくりくる、という理由でした。
ごく簡単な特別観覧会の次第以外は、特別展内で入手できるものです。

 

「空前絶後」「未曾有」の展覧会
京都国立博物館の講堂

京都国立博物館の講堂

この特別展「京のかたな」が、いかに稀有なものか、説明します。

 

① 史上初の刀剣メインの特別展

京都国立博物館開館以来、120年の歴史で初めて開催される特別展です。

 

② 国立博物館としては21年ぶりの特別展

東京国立博物館で1997年に行われた「日本の刀」以来、21年ぶりの開催です。

 

③ 山城系を集めた展示は75年ぶり

1943年に恩賜京都博物館(当時)で行われた中規模の展覧会である「山城物刀剱特別展観」以来、75年ぶりの開催です。

このように、私の在職中に国立博物館で刀剣の特別展が行われることはもうないであろう、と思われるくらいの展覧会です。
記者発表でも「未曾有」「空前絶後」という表現を使用しました。

 

④ 国宝19件中17件が集結

山城系の刀剣は、全国で19件の国宝がありますが、そのうち実に17件が集まりました。
神宝などでどうしても動かせないもの以外は、全て集まりました。

 

⑤ 山城鍛治の生まれから終わりまで全て

通常の刀剣展は、桃山時代で終了します。
しかし、今回は江戸時代から現代までを全て振り返ります。
このような展示はほとんど例がありません。

 

初、初、初のオンパレード。みんな知っているけど、誰も見たことない

展示は、時代巡に全8章にわけるという、オーソドックスなものです。
(ここからは、展示内容と重複しない内容のみを記載します)

 

① 京のかたなの誕生

山城鍛治のはじまりである三条派は、実はどこで活動していたかは不明です。
拠点であると自称しているところはいくつかありますが、伝承に過ぎません。考古学的な証拠は見つかっていないのです。
メイン展示のひとつである「三日月宗近」は、独立ケースに入れて360度どの角度からでも見られるようにしています。
三日月宗近を所蔵する東京国立博物館でも、このような展示は行っていません。
特別展中の今しか見ることができない展示です。
宗近の文化財指定3品が揃うのは、史上初のことです。

 

② 後鳥羽天皇と御番鍛治

後鳥羽天皇御画像「国史大図鑑」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

後鳥羽天皇御画像「国史大図鑑」出典:国立国会図書館デジタルコレクション

刀剣史に名を残す後鳥羽天皇ですが、単に刀が好きだったというだけではありません。史上初めて三種の神器が揃わず即位したため、天災の度に「今の陛下は・・・」と誹謗中傷を浴び続けてきました。
後鳥羽天皇は自らの正当性を示すため、三種の神器である草薙の剣にまさる刀を作ろうとしたのです。

自分のためという狭い了見ではなく、神器が足りないと日本の国が危うくなる、と考えたためでもありました。
自ら焼き入れをしたと伝わる刀剣は「菊御作」と称されますが、文化財指定4品が揃うのは史上初のことです。

 

③ 粟田口派と吉光

粟田口派を代表する吉光の作だけで何と16品が集結するという、溜息しかでない展示です。
ここまでも何度も初、初、初といってきましたが、何もかもが初のレアすぎる展示です。

 

④ 京のかたなの隆盛

京で発展した刀鍛治は、全国へと伝播していきます。
鍛治の技術だけではなく、京の文化も同時に地方へと広がっていきました。
注目の展示は、89番の「銘九州肥後同田貫上野介」です。
展覧会ではそのような説明はまったくありませんが、これは九州国立博物館の評議員をつとめていたこともある、王貞治氏の寄贈です。
気付く人は稀でしょうが、出品番号89番というのは、ホークス監督時代の王貞治氏の背番号です。
ちょっとしたお遊びを仕込みました。

 

⑤ 京のかたなの苦難

天文法華の乱によって京都は壊滅し、衰退した京都からは刀鍛治も逃げ出しました。
伝統ある京都の刀鍛治の系譜もいったん途切れてしまいます。

メイン展示のひとつである「圧切長谷部(へしきりはせべ)」は、先ほどの三日月宗近と同様、独立ケースでの展示をしています。
所蔵している福岡市博物館の学芸員が「聞いてない、うちでもこんなのやってないのに」と悔しそうにつぶやいていましたのがとても印象的です。
大きな独立ケースがある京博ならではの展示です。

 

⑥ 京のかたなの復興

信長や秀吉によって京都は復興し、地方から刀鍛治が集まってきます。
馬上用の太刀を短くして刀へと変える「すりあげ文化」が誕生しました。
すりあげにより銘が失われ、誰の作は不明になったため、刀剣の鑑定家という職業が誕生しました。
光悦で有名な本阿弥家が刀剣鑑定家の代表です。

 

⑦ 京のかたなの展開

ここからが、通常の展覧会ではなく新しい時代の内容です。
京で学んだ刀鍛治が全国へ展開し、大阪新刀などが誕生しました。

 

⑧ 京のかたなと人々

京都市民が大注目の長刀鉾の「長刀」が展示されます。
誰もが知っている超有名な刀剣ですが、実物は鉾町に住む人ですら見たことがないという幻の品です。
明治時代に入ると、立命館大学が日本刀鍛錬研究所を設置しました。
ここから山城鍛治の最後の一人であり、人間国宝の隅谷正峯(すみたにまさみね)氏が輩出されます。

立命館大学のパンフを見ても、自校が人間国宝を生んだなんてことはどこにも書いていません。
芸術系でない大学が人間国宝を生んだなんて、すごいことです。
伝統文化の伝承に大きな役割を果たしてきた、というのは大学の大きな宣伝になるのにもったいないことです。

石清水八幡宮に伝わってきた神宝に、インドネシアの剣であるクリスがあります。
クリスを用いて密教の修法による雨乞いが行われてきました。
神社でインドネシアの剣を使って仏教の儀式を行うという、京都がいかに懐が深い町であったかがよくわかります。

 

特別展の自由観覧

特別展会場の入口にて

特別展会場の入口にて

末兼俊彦氏の講演終了後、特別展の自由観覧へと移ります。
三日月宗近だけ3分程度待ちましたが、他は全く待つことなくスムーズに見られます。京博のキャパに対してわずか100人程度なので、ゆっくりと細部まで鑑賞します。

この特別展は「刀剣乱舞」人気もあり、全国から刀剣女子が集結しています。
平日は入場制限はほとんどありませんが、週末は台風襲来時ですら入館1時間待ちだったと話題になりました。
中でも三日月宗近を間近でみるには、館内でも長い行列に並ぶ必要があります。

通常は混雑する展覧会をゆっくり見ることができました。
京都国立博物館様、ありがとうございました!

 

おわりに

MKタクシーは、京都国立博物館などにご協力いただき、本記事のような特別鑑賞会を実施しています。
特別な講演会や観覧をさせていただき、MKタクシーもお客様への口コミや車載広報誌、SNS等で広報に協力しています。

京都で働く観光タクシードライバーは、日々京都に関する歴史・文化などの知識を磨かなければなりません。
常日頃から、自学自習はもちろんのこと、座学による勉強会や現地勉強会を行っています。ときには、京都国立博物館など外部とも連携し、特別な勉強会も行っています。

是非、京都へいらっしゃる際は、日々研鑽を積んでいるMKタクシーの観光ドライバーによる観光ガイドを体験してみてください。

 

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