8月5日は「タクシーの日」日本初めてタクシーが走ったのは何年前?

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8月5日は「タクシーの日」日本初めてタクシーが走ったのは何年前?

8月5日は「タクシーの日」です。日本で初めてメーターをつけたタクシーが「営業を開始した」とされる日を記念して、1989年に「タクシーの日」と定められました。
タクシーが初めて走ったのは、2023年から111年前の1912年のことです。しかし、実は日本初のタクシー営業開始日は8月5日ではありませんでした。

日本で初めてタクシーが走ったのは111年前の1912年

2023年からさかのぼること111年の1912年に、日本で初めてのタクシーが走りました。
1989年のタクシーの日制定以来、8月5日が日本で初めてタクシーのタクシーの営業開始日とされてきましたが、実は誤りであることが明らかになっています。

交通関係の歴史年表(京都府運転免許試験場) 撮影:MKタクシー

交通関係の歴史年表(京都府運転免許試験場) 撮影:MKタクシー

1912年8月5日は何の日?

「タクシーの日」は、1984年に東京乗用旅客自動車協会(現:東京ハイヤー・タクシー協会)が定めたのがはじまりです。
1989年には全国乗用自動車連合会(現:全国ハイヤー・タクシー連合会)が8月5日をタクシーの日に制定しました。
全国各地でタクシーの日を祝う記念行事が行われるようになり、広く定着しました。

1912年刊行 若月保治「自動車の話」 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

1912年刊行 若月保治「自動車の話」 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

 

タクシーの日の公式見解

8月5日をタクシーの日として定めた理由について、制定者である全国タクシー・ハイヤー連合会による公式見解ともいうべきタクシーの日の説明は、以下の通りです。

タクシーが我が国に誕生したのは、大正元年(1912年)8月5日※です。現在の東京・有楽町マリオン(千代田区有楽町2-5)に設立された「タクシー自働車株式会社」が、タクシーメーターを装備したT型フォード6台で営業を開始しました。
※タクシーの営業開始月が8月であることは確かですが、開始日については諸説あります。

タクシー事業の現状 | 8月5日はタクシーの日 – 全タク連 (taxi-japan.or.jp)

タクシーの日である8月5日が営業開始日かどうかは明確ではないと記載されています。
少し前(少なくとも2018年)までは、同じタクシーの日の説明部分で以下の説明がされていました。

タクシーが我が国に誕生したのは、大正元年(1912年)8月5日です。現在の東京・有楽町マリオン(千代田区有楽町2-5)に設立された「タクシー自働車株式会社」が、タクシーメーターを装備したT型フォード6台で営業を開始しました。

タクシーの日である8月5日が営業開始日であると明確に書かれていました。
タクシーの日制定から30年ほどは、営業開始日=8月5日でしたが、「諸説あり」に変わったのです。

1912年刊行 若月保治「自動車の話」 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

1912年刊行 若月保治「自動車の話」 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

 

タクシーの営業開始日は8月15日

実は、タクシー自働車株式会社の営業開始日がタクシーの日の8月5日ではなく8月15日であることが明らかになっています。

東旅協30年史の記載

前述のとおり、タクシーの日は1984年に東京乗用旅客自動車協会によって定められました。
制定後の1990年に刊行された「東旅協30年史-ハイヤー・タクシー発達の軌跡-においては、以下の記載があります。
「大正元年(1912)8月5日、有楽町の数寄屋橋畔(元日本劇場)に資本金50円で『タクシー自働車株式会社』が設立された。」
「T型フォード6台をそろえ、ドイツ製の料金メーター機をつけて、8月15日から営業を開始した。」
「今日、8月5日を〈タクシーの日〉としているのも、その故である。」

以上より、タクシーの日の制定者である東京乗用旅客自動車協会は以下の認識であったことがわかります。

  • タクシーの営業開始日は8月15日
  • タクシー自働車株式会社の設立日は8月5日
  • 設立日である8月5日を「タクシーの日」に制定

設立日の根拠は不明ですが、営業開始日については、東京朝日新聞への「8月15日より運転開始」と明記された営業開始広告画像が掲載されています。

日本交通社史の記載

さらにさかのぼると、1961年に刊行された東京の日本交通社史にも、タクシー自働車株式会社が8月5日に設立された旨と、8月15日から営業を開始した旨が記載されています。
前述の営業開始広告画像に加えて、「来(きたる)15日より開始」という新聞記事の画像も掲載されています。

国際自動車社史の記載

さらに詳しいのが、1995年に刊行された国際自動車株式会社による社史「感謝をこめて五十年」です。
「わが国初のタクシー営業は、大正元年(1912)8月15日、タクシー自働車㈱によって始められた」と明記されるとともに、8月12日付けの読売新聞、8月16日付けの東京朝日新聞、8月21日付けの中央新聞の記事本文も引用されています。
さらに8月14日付けのジャパン・タイムスに掲載されたタクシー自働車㈱による8月15日開業の英文広告画像と、読売新聞への営業開始広告画像(前述の東京朝日新聞掲載と同一)も掲載されています。

うち東京朝日新聞の記事は以下のとおりです。

開始せる辻待自動車(1912年8月16日付け東京朝日新聞)

此程の紙上に記した麹町区有楽町タクシー自動車会社の辻待自動車は愈(いよいよ)昨日より営業を開始した。追々車輛を殖す計画であるそうだが、目下は都合6輛で内3輛を新橋駅に、2輛を上野駅に、1輛を本社に配備した処が中々の好況で午前6時から午後2時迄に客を載せて運転した。

なお、会社設立日は7月10日との記載はありますが、8月5日に関する記載はありません。

 

8月5日は会社の設立日???

東旅協30年史、日本交通社史、国際自動車社史ともにタクシー自働車株式会社の営業開始日が8月15日であることは一致しています。
全国タクシー・ハイヤー連合会の公式見解では「諸説あり」となっていますが、当時の新聞記事等からも8月15日であることは確実でしょう。

一方で、タクシー自働車株式会社の設立日は、前2者が8月5日とするのに対し、後者は7月10日としている点が異なります。

タクシー自働車株式会社の設立登記が記載された官報1912年07月19日号 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

タクシー自働車株式会社の設立登記が記載された「官報」1912年07月19日号 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

会社の設立日は登記情報なので、官報に掲載されます。
官報1912年07月19日号には、タクシー自働車株式会社の設立日が1912年(明治45年)7月10日と記載されています。
タクシー自働車株式会社の設立日が8月5日ではなく7月10日であることが確実です。

一説には、開業予定日は当初8月5日だったが、実際に営業を開始したのは8月15日であるという説もあります。
ただ、この説は自動車史家の佐々木烈氏も採っておらず、確たる根拠はありません。
一方で、すでに1937年刊行の「日本自動車発達史 明治篇」や1942年刊行の「東亜自動車年鑑」においても、タクシー自働車株式会社の営業開始日が8月5日との記載が見られます。
すでに開業から25年が経過した時点の資料のため、単なる誤記なのか、混同するのもやむを得ない事情があったのかは不明です。

8月5日に事業開始との記載がある「東亜自動車年鑑」 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

8月5日に事業開始との記載がある「東亜自動車年鑑」 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

 

8月5日が何の日かは今も不明

タクシーの日を制定した東京乗用旅客自動車協会は、前述のとおりタクシー自働車株式会社の設立日を8月5日であると誤認していました。
であれば、終戦記念日である8月15日ではなく8月5日を記念日とするという選択はごく自然なことです。

その後いつの間にか8月5日というのが定着してしまい、制定者である全国タクシー・ハイヤー連合会もタクシーの日である8月5日が営業開始日であると誤認していたことは前述のとおりです。
もしかしたら、タクシーの日はタクシー自働車株式会社の設立日である7月10日であったかもしれませんね(7月10日は「納豆の日」らしいです)。

すでに40年近く8月5日がタクシーの日として扱われてきたのだから、事実はどうであれタクシーの日は8月5日で良いじゃないか、というのもひとつの考え方でしょう。

 

明治と大正のはざま

タクシー自働動株式会社は設立日が明治45年であるのに対し、営業開始日は大正元年です。いずれも西暦で1912年であり、約1ヶ月も離れていませんが、この間に改元されたためです。
明治天皇は1912年(明治45年)7月18日に重態に陥り、7月30日に崩御されました。
同日皇太子が即位し、即日1912年(大正元年)7月30日に改元されました。
昭和→平成、平成→令和は翌日改元(踰日改元)でしたが、明治→大正、大正→昭和は即日改元でした。

前述のとおり、タクシー自働車株式会社は当初営業開始日を8月5日と予定していましたが、8月15日に変更したという説もあります。
明治天皇の不予から崩御の混乱の中で営業開始日を延期せざるをえなかったというのは、いかにもありそうな話しではあります。

タクシー自働車株式会社の初代社長を務めた長晴登 久保田倫正 編「帝国之選良」 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

タクシー自働車株式会社の初代社長を務めた長晴登 久保田倫正 編「帝国之選良」 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

 

自働車か自動車か

日本でタクシーを初めて走らせたのは、タクシー自車株式会社です。
当時は「じどうしゃ」には「自動車」と「自働車」の二通りの表記がありました。
日本に自動車が入ってきた当時から、両者は混在しつつも人が動かすのだから人偏がつくべきという考えから自働車という表記がやや優勢でしたが、やがて自動車へと統一されました。
最初のタクシーを営業してタクシー自働車株式会社も、自働車が正式社名ですが、自動車という社名表記も少なからず使われていました。

タクシー自働車株式会社の設立時には自働車か自動車かだけではなく、タクシーをどう表現するかも問題となりました。
当初はタクシーを辻待人力車にならって「辻待自働車」という名称も考えられていました。
しかし、原語にあわせてTAXIを採用することになりました。
カタカナ表記するにあたっても「タクシー」か「タキシー」かも問題になったといいます。
もしかしたら、タクシーではなくタキシーになっていたかもしれませんね。

タクシー自働車株式会社の取締役を務めた米田穣 久保田倫正 編「帝国之選良」 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

タクシー自働車株式会社の取締役を務めた米田穣 久保田倫正 編「帝国之選良」 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

 

運賃メーターとタクシー

タクシーの日は、日本で初めてメーターをつけたタクシーが営業を開始した日です。
では、その前にメーターをつけないタクシーが存在していたのでしょうか?

タクシーとは

現在、日本の法律ではタクシーとは、タクシー業務適正化特別措置法で「一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者がその事業の用に供する自動車でハイヤー以外のものをいう。」と定義付けられています。

日本では全てのタクシーに運賃メーターがあるかというと、そういうわけではありません。
距離制運賃を適用しない場合は、運賃メーターの設置義務はありません。
介護タクシーのほか、都市部以外のハイヤーがない地域の時間制運賃専用のタクシーでは、運賃メーターが設置されていない場合もあります。

では、1912年8月15日以前に、メーターなしのタクシーがあったのでしょうか?

 

タクシーの語源

1912年はタクシーが法制度で定められる前なので、タクシーという用語の語源から考えてみます。

英語のタクシー(TAXI)とは、”taximeter cab(タクシーメーターキャブ)”の略で、タクシーメーターつきのキャブです。
現在はCAB(キャブ)は主にアメリカ英語でタクシーの意味で使われますが、元の意味は辻馬車(辻待馬車)です。

メーターは「計算機」という意味ですが、肝心の「タクシー」はいったいどういう意味でしょうか?
タクシーメーターが発明されたのは、1891年のドイツで、ドイツ語ではtaxameter(タクサメーター)と言います。
taxaはラテン語のtaxo(タクソー)に由来し、「算定する・評価する」という意味があります。
つまり、タクシー=taximeter cabを直訳すると「算定計算機付き辻馬車」という意味になります。
もともとタクシーメーターは辻馬車用に発明されたもので、のちに自動車に装着されるようになりました。

以上のように、タクシーの語源を探ると、運賃メーターがついていることがタクシーの前提となっていることがわかります。
運賃メーターがなければタクシーではないということです。

なお、タクシーの由来となったラテン語のtaxoは、英語のtax(税金)の語源でもあります。「算定する・評価する」という共通の語源からできた姉妹語です。
taxiとtaxは字面も似ていますが、もともと同じ語源だとは面白いですね。

 

貸自動車が日本のタクシー・ハイヤーのはじまり

日本のタクシー・ハイヤー業界の最初は、1910年ごろに帝国運輸株式会社が始めた貸自動車です。
貸自動車とはレンタカーのことですが、運転手付きでの貸し出しだったので、今のハイヤーにあたります。当時は自動車を運転できる技術を持った人は非常に限られていたので、当たり前です。
料金は距離制ではなく時間制になっており、5人乗りの大型車は1時間5円、2人乗りの小型車は1時間3.5円でした。もちろん運賃メーターはついていません。

なお、この帝国運輸株式会社は、1907年に日本で初めてトラック業を行った会社です。荷馬車との競争や故障の頻発による経営不振で、貸自動車を始めた1910年のうちに営業を終了しました。わずか4年の歴史でしたが、日本で最初のトラックとハイヤーを始めたということで今に名前を残しています。
帝国運輸株式会社のあとにも、自動車の販売会社などが次々と運転手付きの貸自動車事業へと参入しました。
しかし、これらの貸自動車は非常に高価で、お金持ちが物珍しさから利用する乗り物でした。
実用の移動手段としてのタクシーは、1912年に開業したタクシー自働車株式会社に始まります。1912年以前には、今のハイヤーにつながる貸自動車は存在したものの、タクシーは存在してませんでした。

現在、一般的には必ずしもタクシーとハイヤーを区別して呼称するとは限りません。
タクシー以前に存在した、今のハイヤーにあたる貸自動車は含まないということを明確にするために、タクシーの日の説明において「日本で初めてメーターをつけたタクシー」と表現しているのではないでしょうか。

1912年刊行 若月保治「自動車の話」 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

1912年刊行 若月保治「自動車の話」 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

その他の運輸業界の記念日

タクシーの日以外の運輸業界の記念日を紹介します。
タクシーの日を含めていずれも1988年~1994年に制定されていることから、このころの一種のはやりだったのでしょう。

 

9月20日「バスの日」

1903年9月20日に京都でバス事業が始まったことを記念したものです。
1988年に日本バス協会によって定められました。
ただし、京都で行われたバス事業は、乗車定員6名の車両によって行われたものです。
今でいうとバスではなく乗合タクシーにあたります。

そのため、1905年1月ごろに広島で始まった12人乗りの車両による事業が日本で初めてのバスという意見もあります。
どちらも相応の根拠があるのですが、広島の方は営業開始日がはっきりしないこともあって、採用されませんでした。

 

10月14日「鉄道の日」

明治5年9月12日(西暦1872年10月14日)に、新橋~横浜間の鉄道が開業したことを記念したものです。
1921年に鉄道省によって「鉄道記念日」に制定されました。
1994年にあらためて鉄道関係の事業者らによって「鉄道の日」に定められました。

 

10月9日「トラックの日」

これはわかりやすいと思いますが、「トラック」の「ト」(10)と「ク」(9)を取ったごろ合わせです。
1992年に全日本トラック協会によって定められました。

 

おわりに

日本でタクシーが始まったのは、2023年から111年前の1912年のことです。
MKタクシーの前身であるミナミタクシー株式会社が誕生したのは、1960年のことです。
2023年現在創業64年目ですが、タクシーはそれ以前に48年の歴史を歩んできました。
これからも、タクシーをより便利で利用しやすい交通手段とするために努めてまいります。

 

参考文献

2017年刊行 佐々木烈「日本のタクシー自動車史」
1961年刊行 日本交通社史編纂委員会「社史」
1937年刊行 尾崎正久「日本自動車発達史 明治篇」
1982年刊行 渡辺清「タクシードライバーが綴る バックミラー風俗史」

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