アメリカ反戦兵士たちに寄り添うために④反戦イラク帰還兵の会他『冬の兵士』から|MK新聞連載記事

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アメリカ反戦兵士たちに寄り添うために④反戦イラク帰還兵の会他『冬の兵士』から|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、ジャーナリストの加藤勝美氏による連載記事を掲載しています。
MK新聞2019年4月1日号の掲載記事です。

 

 

アメリカ反戦兵士たちに寄り添うために④反戦イラク帰還兵の会他『冬の兵士 WINTER SOLDIER』から

自殺とホームレスと

「米軍では毎日18人の帰還兵が自殺している。退役軍人省の管轄下で治療を受けている元兵士のうち、毎月1,000人が自殺を試みる。自殺する帰還兵の方が、国外の戦闘で戦死する兵よりも多いのだ」

これらの数値を大半のアメリカ人は知らないが、それは政府が公表を拒否しているためだ。
この統計資料は「常識を求める帰還兵の会」と「真実を求めて連帯する帰還兵の会」が2008年に集団訴訟を起こしたため明らかになった(187ページ)。
街を歩いているとどこでもホームレスになった帰還兵を見かける。ホームレス人口の3分の1は帰還兵なのだ(192ページ)。

何人かのイラク帰還兵はイラク戦争に反対する9・11以降の退役軍人からなる組織を作ろうと、VFP(ヴェテランズ・フォー・ピース)と相談をし、2004年7月24日、「反戦イラク帰還兵の会」IVAWの結成を発表した。
この『冬の兵士』の内容は、2008年3月13日から16日にかけてメリーランド州シルバースプリング市の全米労働大学で開催された公聴会「冬の兵士 イラクとアフガニスタン占領の目撃証言」をもとにしている(6ページ)。
この時点での会員数は1,300人。

 

仮病として起訴される

20歳で戦死した海兵隊上等兵アレクサンダー・アレドンドの父親によると、新兵募集係が高校に来て、現金2万ドルで「誘惑」したという(213ページ)。
9・11のツインタワー崩壊を目撃した後、「中東の奴らを皆殺しにしてやる」と、「人を殺すために」陸軍に入隊した陸軍三等軍曹クリストファー・ゴールドスミスは19歳でイラクに派遣され、住民に自由を約束し、清潔な水の供給、食糧の配給を約束した(241ページ)。
しかし、やがて彼は金曜、土曜の夜に外出してウォッカのボトルを空にし、そのたびに意識を失った。
それが目的だった。精神科医の診察を受けさせられ、「鬱病、不安障碍、適応障碍」と診断され強制入院、軍は仮病として彼を起訴した。
彼の望みは退役後、大学に行くことだったが、進学給付金を失った(246ページ)。
また、陸軍三等兵曹ピーター・グッドマンによると、イラク人の死体は道に放棄して住民に埋葬を任せ、下水道が稼働しなくなり、下水が道路に逆流した(191ページ)。
ここにあったのはヴェトナム戦争以来の「人種差別+非人間化=憎悪」の方程式だった(222ページ)。

 

強姦を報告するのは恥知らずだ

軍隊内の女性差別問題もあった。
女性兵士の数の多さはイラク戦争と過去の紛争と大きく違っていた。
ヴェトナム戦争では7,500人、湾岸戦争では4万1,000人、イラクとアフガニスタンでは16万人を超え、2008年時点で、現役兵士の15%、前線に配置される兵士の11%を占めていた(155ページ)。
退役女性兵士の3分の1近くが性的暴力や強姦被害を受け、71%から90%が任務を共にした男性から性的嫌がらせをうけたという。
これらの数字は当時のニューヨークタイムズやヘラルドトリビユーンの記事に依っている。

次は湾岸警備隊員の匿名の発言。これは8ページにわたって掲載されているが、強姦されたことを上司に伝えると、法務班の少佐が「強姦を報告するのは恥知らずなことだ。訴えを取り下げなければ監獄送りになる」とも言われた。
2007年、この女性兵士は「容認しがたい行為」という理由で名誉除隊となり、新兵募集係が約束していたボーナスの支払いも拒まれ、ボストンの退役軍人病院でPTSDと軍隊内的性的トラウマの治療を受け続けている(170ページ~)。

 

誰でも人を殺せるようになる

戦闘中の兵士の発砲率について興味深い調査研究がある。
『冬の兵士』が引用しているデーヴ・グロスマン著『戦争における「人殺し」の心理学』(ちくま学芸文庫、筑摩書房、2004)そのものを見ることにする。
第二次大戦中、米陸軍准将S・L・Aマーシャルが平均的な兵士たちに敵との遭遇戦に関して質問した。
100人のうち平均15人から20人しか「武器を使っていなかった」。2日、3日と戦闘が続いても同じ。
マーシャルは陸軍所属の歴史学者で、彼のチームがドイツや日本軍との接近戦に参加した何千という兵士への個別及び集団の面接調査がなされたが、結果は常に同じだった。
第二次大戦中、ライフル銃兵は15から20%しか発砲しておらず、日本軍の捨て身の集団突撃に直面した時でもそうだった(43ページ)。
マーシャルは言う。
「ほとんどの人間の内部には、同類たる人間を殺すことに強烈な抵抗感が存在する」。しかし、「適切な条件付けを行い、適切な環境を整えれば、ほとんど例外なく誰でもが人を殺せるようになる」(44ページ)。

彼の研究以後、敵は自分とは異質な人間だ、人間でさえないと、基礎訓練キャンプで殺人が神聖視されるようになった。
自責を感じないようにする軽蔑の製造。また、イスラエル国防軍の対テロリスト狙撃兵訓練コースの訓練士は「標的はできるだけ人間らしくした」と語る。
的を解剖学的にも正確な実物大の人間型にし、合成樹脂の頭をつけ、キャベツを切って中にケチャップを詰めて張り合わせ、「スコープを覗くときは頭が吹っ飛ぶのをよく見るんだ」と言って聞かせた(395ページ)。
マーシャルは朝鮮戦争にも派遣され、新しい訓練法で歩兵の55%が発砲していたことが判明、ヴェトナム戦争では発砲率は90~95%に昇った(390ページ390)。

『冬の兵士』に戻ると、2008年3月25日までに、退役軍人省に障碍者手当を申請したイラク・アフガニスタン帰還兵の総数は28万7,790人(189ページ)だが、この本にはアフガニスタン帰還兵の発言は収録されていない。
このため、変則的だが、同国に侵攻したソ連兵の体験をスヴェトラーナ・アレクシェーヴィッチ著『アフガン帰還兵の証言』(三浦みどり訳、日本経済新聞社、1995)からごく一部を紹介する。

 

アフガン戦争でのソ連兵

1986年、国際主義の義務を果たすため「俺たちは革命をやりに行くのだ」と信じて現地に行くと、指揮官は「素早く歩いて命中させろ。考えることは任せろ」という。
子どもも撃ち、誰も容赦しない。そして住民は男も女も年寄りも子どももソ連兵と戦った。
運転手が車を止めてボンネットを開けると、10歳ほどの子どもが後ろから心臓のあたりにナイフを突き刺す。
少年は銃弾で蜂の巣になる(28ページ)。あちこちの部落で兵士が熊手で刺し殺された(34ページ)。
そして10年たって兵士たちに肝炎、脳挫傷、マラリアの後遺症が出ても、邪魔者扱いされる(32ページ)。
「真実を語れば監獄か精神病院行きだ」(45ページ)。
著者は2015年のノーベル文学賞受賞者。

(2019年3月3日記)

 

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フリージャーナリスト・加藤勝美氏について

ジャーナリスト。
1937年、秋田市生まれ。大阪市立大学経済学部卒
月刊誌『オール関西』編集部、在阪出版社編集長を経て、1982年からフリー
著書に『MKの奇蹟』(ジャテック出版 1985年)、『MK青木定雄のタクシー革命』(東洋経済新報社 1994年)、『ある少年の夢―稲盛和夫創業の原点』(出版文化社 2004年)、『愛知大学を創った男たち』(2011年 愛知大学)など多数。

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1985年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1985年11月7日号~1995年9月10日号 「関西おんな智人抄」(204回連載)
1985年10月10日号~1999年1月1日号 「関西の個性」(39回連載)
1997年1月16日号~3月16日号 「ピョンヤン紀行」(5回連載)
1999年3月1日号~2012年12月1日 「風の行方」(81回連載)
2013年6月1日号~現在 「特定の表題なし」(連載中)

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