自給自足の山里から【182】「手足を使い自然に向かう」|MK新聞連載記事

よみもの
自給自足の山里から【182】「手足を使い自然に向かう」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2014年4月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

手足を使い自然に向かう

「雪景色きれいやろなぁ」

今年の春の訪れは遅い。3月も中頃になるのに、朝、目を覚ましたら、外は一面真っ白、雪が降り続く。
白銀の世界を裂くかのように「コケッコッコー」。
農作業ならぬ除雪作業に汗かく。
大地が見えると、トリたち盛んに土をついばむ。孫たちやってきて、トリたちと遊ぶ。突然「うあ~」と泣き声。みのり(7歳)である。見ると、オンドリが突っかかっている。腕にちょっと傷。私は怒りのこぶし。母親の好美は「たいしたことない」とケラケラ笑う。
畦(あぜ)に昨日まで黄色く笑っていたふきのとうは、白いものに覆われて姿を消す。春めきの感動を抑え込む。戸惑い。
からだの調子が、どうもしゃきっとしない。
隣村の友人は「この頃、続けて村の葬式や。空家増えるなぁ」と苦渋の表情。
大阪・都会の友人から「そっちは雪景色がきれいやろなぁ」なんておっしゃる。思わず「きれいやなぁ。異常気象のおかげや。まあ、都会のおかげや」なんて…。

ああ! インターネット社会!

都会で、若者の無差別通り魔殺傷事件が続く。田舎では、老いし者の孤独死続く。かの若者は、自分の居場所はインターネットが全てであり、友達はインターネットだけ。そして、世間を騒がせ、社会報復としての事件という。
今日のインターネット社会がもたらしたものであり、肌寒く、心痛む。
私は30年前、都会から山村に家族で移住し、縄文の思いを持つ百姓を志した。その頃、よく「これからはコンピュータの時代、便利な機械だ。百姓の道具として、ぜひ使え」と盛んに勧められた。
しかし、未(いま)だ、パソコン・ケイタイなど使ったことのない「化石人間」である。
コンピュータは道具というが、少なくとも縄文時代までは、道具というものは、手足に使いやすい、手足の延長として、自然とお互いに作用し合って、欲望を抑え、自然をはじめ、人類・自分自身を破壊・破滅しないものであった。
今、都市はコンクリートジャングルで、ビル・高速道路などで人間は自然から遮断され、コンビニでエサを与えられるペット化している。自分でつくり出した人工的な機械・コンピュータなどの「道具」に支配され、自己破滅へ進んでいる思いである。

堕落したくないから使わない!

2400年前、中国の思想家・荘子は、その著『荘子』外編の「天地」のところで、次のような説話を残している。
孔子の弟子の子貢が、一人の百姓が畑で働いているのを見た。百姓は掘ってある井戸の水面まで降りて、かめで水を汲(く)み上げては畑に灌水(かんすい)している。汗水たらして、労ばかり多くて、効果は少ない。
見かねて子貢は声をかけた。「そんなことしなくても、1日に1回、畦の畑に灌水できる機械がありますよ。骨を折らなくても仕事の効果がどんどん上がりますよ。どうですか、使ってみては」。
百姓は頭を上げて、「それはどんなもんかね」と尋ねた。「木でつくってあって、前が軽く、後ろを重くしてあります。それで吸い上げるように水を吸い上げ、沸きたぎる湯のような勢いで水が流れ出ます。その名をはねつるべと言います」。
百姓は一瞬むっとした表情をしたが、やがて笑って言った。「私は先生からこう教えられた。『機械があれば、機械に頼る心(機心)が生まれる。機械に頼る心が生まれれば、生まれながらの心を失う。生まれながらの心を失えば、雑念があとを絶たなくなる』と。私だってはねつるべを知らないわけではないが、堕落したくないから使わないまでのことだ」。
子貢は、百姓の言葉に恥入って、返す言葉もなかった。

同じ村で百姓をして3人の子を育てている私の息子・ケンタ(35)は、「なんで? 機械使わないの?」と聞かれて、「1年間の苦労の全てを、機械に奪われるような気分になる」と返していた。ほとんどインターネットなど使っていないよう。
私は鎌と鍬(くわ)を持って田畑の大地に向かう。頭と手と足を使う単純な作業だが、ひと鎌ひと鎌、ひと鍬ひと鍬が、稲・野菜などに向かい、互いに喜び合う思いである。
3年前の3月11日のフクシマ原発事故は「機心が生まれ、生きながらの心を失い、堕落した」ものと言える。

棺桶つくって

3月2日、昼の2時から1時間、フジテレビ(関東)で、私たちが「我ら百姓家族―子どもたちの15年」と題して紹介・放映された。
私の本(「六人の子どもと山村に生きる」麦秋社)を読んで、15年前から取材しているフリーの演出家・込山正徳さんの作品である。
冒頭、私が医者から「あなたはがんです」と宣告されたというシーンが映し出される。
最後に、双子の娘のれい・あい(24)と夕食の卓を囲んでの会話が流れる。
「父さん。棺桶つくったら」(れい)、「自分でつくったら長生きするんだって」(あい)。
山村で、男手ひとつで6人を育てた一端です。笑覧。なんでも視聴率7・3%とか。関西では未定。

(2014年3月9日)

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

この記事が気に入ったらSNSでシェアしよう!

関連記事

まだ知らない京都に出会う、
特別な旅行体験をラインナップ

MKタクシーでは様々な京都旅コンテンツを
ご用意しています。