自給自足の山里から【194】「日本の山村、 アメリカの先住民」|MK新聞連載記事
目次
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2015年4月1日号の掲載記事です。
大森昌也さんの執筆です。
日本の山村、アメリカの先住民
限界集落がよみがえる 春よ来たれ!
白い残雪が、山間に冬をのこし、「ホッケッキョ」のひと声が、白いウメの花を咲かせ、ふきのとうが黄色く笑い合い、樹々はうっすらとした白から翌日には赤い芽を吹き彩る。
冬水田んぼは、黒いオタマジャクシのかたまりが目立ち、畦にはアオサギの白いフンが散らばる。畑には、雪を耐えたキャベツ、白菜、玉ネギらが元気にうれしく勇気をもらう。
この山村の美しくも豊かな姿は、滅びゆく限界集落に移り住んで30年、家まわりの黒木(くろき)といわれる杉桧(ひのき)林を子どもたち・来訪の「百姓体験居候」の若者らと、伐採して生み出したものである。伐採した木は、友人が苦労して作った簡易製機械で、若者らが板・柱などを作り活用する。跡地は、跡地は畑や果樹園になっていく。
近在の人は「地面買って、金にならんと放棄した木を切って、畑にするとは、まあようやるなぁ」と呆れている。
それにしても、すぐ隣の村で、廃村になり黒い森と化したところが2ヵ所ある。
隣の村人は「私の村もこのままだと廃村になる。行政の政策で村おこし事業やるけど、黒い森がおそいかかるのを防げん」とこぼす。私も胸が痛い。
「私らも大森さんみたいに自分らで、若いものが移り暮らすようなことできたらなぁ」とつぶやく。限界集落がよみがえることを望む春よ!
アメリカの植民地、腐ってゆく田畑森
山国日本、日本人の源・魂のふるさとといえる山村が、この4、50年で消え朽ちゆくのを止められないのか?
隣市の友人は「そりゃ、日本敗れてアメリカに占領され、独立したとはいえ、安保条約などがあり、植民地になっているからじゃ。身の処し方にしろ、アメリカ化しているからなあ。私ら60~70代は、子や孫たちのこと考えんで、今の自分のことしか考えないからなあ。田畑・森(やま)が荒れ、腐っていっても知らん顔じゃ」と、ひとり暮らしのこれを味わう。
矢部宏治さんは『日本は、なぜ「基地」と「原発」を止められないのか』(集英社)と問い、アメリカの植民地化と推し進める官僚階級を鋭く指摘している。
アメリカ先住民をほとんど虐殺し、辺境へ
私の姪は、高校を出てからアメリカで暮らしている。兵役につき大学に行く黒人の青年と結婚し、今は二児の母である。
娘のれい(25)は、10代の時、中南米のエルサルバドルの小さな村に、2年近く暮らす。
ちえ(28)も、半年近く、ペルーなど中南米を女ひとり旅した。
れいたちが愛読する『ネイティブ・アメリカン』(岩波新書)の著者・鎌田遵さんが、最近『「辺境」の誇り―アメリカ先住民と日本人』(集英社新書)を出す。
本のはじめにで、「…我々の先祖は、大地を白人に奪われ…流浪の民となった。アメリカ先住民の歴史と、フクシマの地を追われた避難民が直面する現実は重なる」と、アメリカの先住民ダコタ族のスピリチュアル・リーダーのレイモンド・オーウェンさんは、静かな口調で語った。
1492年にコロンブスが、アメリカ大陸を「発見」して以来、白人は暴虐の限りを尽くし、先住民を迫害し、ほとんどを虐殺した。(チュマッシュ族の先祖は、1万3千年にわたって、南カリフォルニア州で生活、1542年当時、人口は1万8千~2万2千人・1920年の人口は、わずか74人)生き残った先住民を、辺境の居留地に囲い込んだ。
アメリカ先住民の抵抗の歴史、発せられる声は、日本社会に多くの示唆を与えている。
ブラックと、ブラックミン
本の第5章・受け継がれる想いの中で、2010年、カリフォルニア州オークランドの黒人街の路上で、元ホームレスだった黒人男性の話を聞いた。…突然、「日本にいる同胞はどうしているのか」と鋭い視線を投げかけた。同胞と聞いてもピンとこない。日本に在留の米兵のことか、アメラジアン(アメリカ人とアジア人の混血)のことなのか、わからなかったので、問いただすと「ブラック・ミン」のことだという。
ようやく被差別部落のことを尋ねていることがわかった。…アメリカとは異なる。外見からはわからないのだと説明した。
…「なぜ、60年代のブラック・パワーのように、ブラック・ミン・パワーで国家を変えないのか。オバマのように、ブラック・ミンは、日本の大統領(総理大臣)になれないのか」
「ブラックとブラックミン、もしかすると差別される民を指す言葉には、文化を超えた普遍的な響きがあるのではないか」とひとり言のようにつぶやいて…消えていった。
理想郷が見えてこない―日本の悲劇
鎌田さんは、2012、3年と、我が「あ~す農場」を訪れる。
「あ~す農場は、のんびりして、開放的。ラオスの農村風景を思い出した」と言う。
「『理想郷』求めて、87年に移住し、現在長男ケンタ、次男げんたち、若者たちの反原発・反サベツの思いの百姓暮らしをルポする。
「大森さんは、被差別部落出身である」と私の幼い頃、青年期の「みえない差別」を記す。
最後に「人々がつながっていけるような理想郷が見えてこない。それが、震災後の日本の悲劇かもしれない」と言う。
本を読んでください。
(2015年3月10日)
あ~す農場
兵庫県朝来市和田山町朝日767
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1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)