自給自足の山里から【188】「子どもたちの北斗星」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【188】「子どもたちの北斗星」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2014年10月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

子どもたちの北斗星

生きとし生きるもの

お年寄りの「今年は、冷夏」の言葉通り、雨続き、日照時間例年の半分の夏。山の樹々・稲・野菜たち、ひしゃげ元気ない山村の秋。
夜明け前、キツネ狙うトリ小屋で、コケッコケッコッコーと奮戦のオンドリ、ジィージィーと虫たちのひびき。夜明けと共に、稲にクモが巣を銀色に輝かせ、イナゴが跳び交い、カエルが跳び回り、黒いタニシがゴロゴロ、イモリたちがヒョロリ、中空をトンボ・チョウチョ飛び舞い、上空には、白いサギ・黒いカラスに、茶のトンビが、ゆっくり舞う。
孫のつくし(9歳)たちは、小川で、サワガニ採りに夢中。「からあげにするんだ」という。来訪のタイの青年は、器用に足を生で食べた。私も食べたが、やっぱり肺吸虫がこわい。
そんな山村に、今年も、8月下旬に関大・同大・京大の学生10人が、2泊3日の「体験」にやってきた。5年続けてである。

今年も大学生たち『自給自足の生活体験』

「あ~す農場を訪問し、自給自足の生活を体験することで、多くの電気やものを消費している現代の生活を見直し、持続可能な社会について考える」“目的”である。
初日は不耕起田畑、果樹園、パン焼き窯、水力発電、バイオガス、トリ小屋、そして縄文百姓志す利君が、自力で在来工法で建てた家を見学の後、鎌をといで草刈りし、薪を割って五右衛門風呂を沸かし、カマドでご飯を炊く。2日目は、午前中40年前この但馬で、万余の人々が決起した、八鹿(ようか)高校差別糾弾の「勝利碑」を訪れ、当時の議長の丸尾さんから話を聞く。昼から、アイガモ・アヒルをつかまえて、屠(ほふ)って解体し、ナス・トマトなど畑から採ってきてチキンカレー作る。3日目は、同じ村で自立し自給自足の暮らしをしているケンタ・よしみのくまたろ農園、げん・りさ子のあさって農園工房を訪れ、刺激ある交流する。

とても新鮮、楽しく、刺激・感銘・励み!

『来訪者ノート』に記された感想です。
「アヒルとカモの解体、貴重な体験でき、お米炊くのも、お風呂沸かすのも、薪割りからはじめ、全て自分たちでやる生活は、とても新鮮で楽しかった」(真紀)
「食事とてもおいしかった。おいしいチャーシューとカレーが作れて貴重な体験」(華凜)
「予想に反して3日間はあっという間。生きるということ、お金とは、共に支え合うことが問われているように思いました。カモから流れゆく血は、赤すぎるように思いました。感じたのは嫌悪ではなく貴さだったことにほっとしました」(美紀)
「普段口にしているものを、自分たちで準備する大変さを知りました」(詩織)
「都会の喧騒に揉まれ、慌ただしく忙しく過ぎていく中では、なかなか、あ~す農場にいるときのように「生きる」「命」に思いをはせる余裕を持つことの難しさを感じています」(志幌)
「山村の社会がなくなったらどうするの? という思いのもと、大森さんが信念を貫いて生きてこられたこと、そこには壮烈な戦いの歴史があったということに感銘を受けました。利さん、そしてちえさんにも、やり方・暮らし方を背中で見せていただき、若い世代にもこんな方がおられるんだなと、刺激を受けました。偉大な先達の存在を励みに、私も自分なりの生き方を模索していきます。仲間作りも」(智士)
この中から「縄文百姓」が生まれん!

原発反対の地元に寄り添い、原理的に戦う水戸厳さん!

娘のりさ子たち若い母親の“集い”に、水戸喜世子さんが講師として来訪。40年ぶりの再会。
喜世子さんの連れ合いの厳さんは、私の手元にある『現代農業』(78年9月号)には、「原発は、永久の負債だ。原水爆時代と、大工業文明礼賛時代の終末を飾る恐竜である」と指摘し、世界中が、原発の夢に酔っていた時代に、いち早く専門家として、原発の危険性を力説し、建設反対運動の現場に寄り添い、その生涯をかけて戦い抜いた人である。
「過激派」弾圧には、「解放を願う全ての人間に対する見せしめ的弾圧であり…弾圧に抗議し、少なくとも、原理的に『過激』に戦っていく以外にありません」(京大出版会「序章」8号、1972年)と。
原発反対の地元の人々に寄り添い、弾圧に原理的に戦う厳さんに「命があると思うな」と家族に脅迫。幼い双子の男の子連れて関西へ避難。そして、1987年正月、双子の息子さんと共に、剣岳北方稜線で「テントのファスナーは閉じていて、谷に向いた面だけにT字型の破れ目があって、そこから谷筋に向けて体が放り出され」た状況で2人の息子さんと共に死す。
「テントのこの破れ目は何が原因でできたものか、何故靴はテントに残したまま全員が寝袋と共に靴下姿で谷筋から発見されたのか、頭部の血痕の原因は何か」と問う喜世子さん。

子どもたちの北斗星であってください

40年ぶりの再会であるが、お元気でうれしかった。我が家に泊まり、子どもたち・孫たちと“交流”する。
「宿泊ありがとうございました。人生でこのような深いところから湧き上がってくる感動を覚えた経験は、多くありません。もしかして、初めてかもしれない気がします」と感想を寄せてくださり、「こんな時代にあって奇跡のような現実を生み出してこられた創造力・実行力は、昌也さん一代では不可能で、お母様の代からの事業の継続だと思いました。水戸の生涯も福島の貧農に生まれ、満州開拓団に参加したり、一族の面倒見てきた長男としての水戸の父親なくして、彼の存在は語られません。生命が誕生した38億年前から数えると、私たちは今、38億歳(寺岡弘文)といえるように、体だけでなく、心も先人を引き継いでいるのですね。先人の思いを引き継ぎ、しっかり生きねばと思いました」の便り。最後に「どうかこれからも、山男のパワーで乗り切ってください。もう少しの間、子どもたちの北斗星であってください」と…感謝です。

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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