自給自足の山里から【186】「動物たちとのふれあい」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【186】「動物たちとのふれあい」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2014年8月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

動物たちとのふれあい

ベキィ ベキィ

「昌也さーん」と、悲鳴に似た声が、トリ小屋の方から私を呼ぶ。飛んで行くと、「百姓体験居候」のみや君(27)が、震え声で「あれ、見て」と。幼子の手の太さあり、2m近い、暗褐緑色の我が青大将が、産卵箱の中でトグロ。
「こらぁ!」と叱ると、シュシュと、舌を出す。
「卵を採りに来たら、ヘビが、口から卵を飲み込むところ。しばらくしたら、ベキィベキィという音が聞こえてきた」と興奮かつ冷静にしゃべる。
「こいつは、背骨の一部に卵の殻を壊す下突起が発達し、食道の中に突き出しているんでなぁ」とちっと解説する。
「まぁ、毒はないから」と言うと、みや君は奴の尻尾を掴んで、振り回す。口から黄身が出てきた。「もう、お仕置きはそのくらいにして、放して」と、私は嘆願する。(笑)
「昌也さん! 昨日のテレビでやっていたけど、ヘビ食べられるんやって」と、我が自然卵を食べて栄耀満点の「ヘビさん、いらっしゃい」とやる気満々である。
私は「あんまりおいしくないって。あの卵割るトゲがあって、食べにくいって」と、けん制する。(笑)
翌日もやってきた。捕まえて、彼は、「前のとは違う。キズがない。何匹いるんや」とぼやく。
とにかく「奴らが入れないよう、隙間をふさごう」と。山から赤土を採ってきて、練り固め、隙間に埋める。
その効あってか、青大将たちは、鳴りを潜める。ところが…。

ああ! ツバメの幼い子たち

朝、食事のとき、陶芸修行から帰ってきた娘のちえが、「私の寝ている部屋に、のそりのそりと青大将が夜中にやって来るんや」と、困惑気味。
この頃、天井裏で夜中に、ゴソゴソ動く気配や、バタッと飛び跳ねる音がする。どうも、我が猫(オス)と、青大将が、ネズミをめぐって争っているよう。自慢げにネズミをもてあそぶ猫を、翌朝に見かける。
さて、ちえの部屋の下は玄関で、ツバメの巣があり、つがいの2羽が一生懸命に卵をかえし、大きな口を開けている幼い子たちを育てている。スイスイとツバメ返しに家の前を飛び交う姿に、うれしさ。
ところが、ある日、ヒナの鳴き声が止み、親のヒィーというさみしげな声! そして、2羽はいなくなった。
犯人は、青大将である。猫は巣に近づけない。
私たちのささやかな山村再生の試みが、青大将やツバメたちの世界を、相まみれさせたということである。
ヘビへの偏見があるが、ヘビがいるということは豊かさの象徴である。縄文土器に描かれているように。憎らしくも弁明する。

トリくわえて、キツネ跳ぶ

ムカデにかまれて、トリ喜ぶ
まだ薄暗い朝、トリ小屋の方から「ヒィー」と、首を締められたような鳴き声。慌てて起き走る。
みや君が、電灯照らしている。「網を越えて、トリをくわえ、跳んでいくもの見た!」と弱々しげな声。
「どこから入ったのかなぁ」と聞くと、「昨日、戸閉めるのを忘れた」とポツリ。
その後も「あのヒィーという鳴き声が耳から離れない」と言う。
朝、長靴をはく。「キャァー」と若者。放り出された長靴から大きなムカデ。幸いすぐ気づき、たいしたことにならず。それでもと「ムカデをつけた焼酎薬」を、ちえがつける。
「俺なんか、素手で溝をいらっていて、ムカデを掴み思いっきりかまれた。年寄りは、『ムカデはトリの大好物。コケッコッコーと叫んだら、痛みも消える』」なんて言う!
近くの棒でたたいたムカデを、トリにやる。「昌也さん、トリすごく喜ぶ」。

マムシ、ケイタイ、シカ、タヌキ、クマ

「今日は、家まわりのしげった草を刈ろう」と、鎌をとぎ斜面の畦(あぜ)に向かう。若者は左利きで、左右に分かれて刈っていく。
しばらくして、「昌也さーん!」の声。声の方を向くと、手に30cmくらいのものを掴んでいる。「そりゃ、マムシやぜ!」と言うと、「そうですか」。首のところを押さえていて、一安心。どうも子もちのよう。身の動きがにぶく、捕まえられてよかった。「カバ焼きにして食べたい」と申すがさて?
かの若者は、夕方、「ケイタイに、電波を食べさせる」と、散歩がてら、山の上の方に行く。暗くなる前に、帰ってくるように言う。
ところが、暗くなっても帰ってこない。心配していると、電話のベルが鳴る。「近くに熊がいる! 迎えに来てください」と。
峠の祠(ほこら)の中で、うずくまっている。
「ここは、スズメバチの巣があったところ。熊が大好物や。もう気をつけんと」と叱る。
「薄暗くなって、タヌキがちょろちょろ、鹿がぴょんぴょん。小さなかわいい熊が出てきたが、近くに大きな母熊がいそうで、怖くなった」と携帯を握り締めている。

この“便り”書いていたら、隣の若者が、「私は、手紙書いたことない」と言う。
私は、静かに、「縄文百姓は、手に鎌と鍬(くわ)、そしてペンを持って、自立がある」と申す。

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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