自給自足の山里から【183】「『農的くらし』の春」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【183】「『農的くらし』の春」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2014年5月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

「農的くらし」の春

母親にしかられて

山村の春は、こぶしから。今年はこぶしの白い花がお山に雪が降ったように咲き、満願の笑みを見せる。心踊る笑みいただく。
友に「お山はすごい! 今年はいいことあるよ!」と電話する。返ってきたのは「先輩の白さん、屋さん亡くなった」である。
ガクッとして受話器置くと、後ろの方から「じいちゃん」の声。振り向くと、孫のみのり(6歳)となお(4)がいる。
「どうした?」と尋ねると、「お母さんにしかられて、お尻たたかれた」とぼそり。
「そうかそうか」と慰め(笑)、「コケッコッコーのにわとりさんに食べ物あげよう」とエサやりを手伝わせ卵採りさせる。
みのり・なおは、隣の「くまたろ農園」のケンタ(長男・35)の子どもである。
隣といっても、標高差50mの曲りくねった300mの坂道を行く。孫らそこを下ってきたのである。
しばらくすると、「しかると急に居なくなって」と母親の好美(33)が下りてくる。「どうも、いつもすみません」と笑う。
産みたての卵を大事に抱えたみのりら親子3人が夕日の中、上っていく。

“あ~す”から“あさって”へ むらに8人の幼い子たち

次男げん(32)・りさ子(33)家族は、隣だが1・2㎞離れている。その隣には、フクシマ放射能逃れ、山仕事・田畑耕す若夫婦。幼い4歳(女)・1歳(男)がいる。男の子は、こちらで生まれた。げんには、3人の男の子(9歳・6歳・3歳)がいる。ケンタの子どもが加わると、8人。
私が行くと、「じィちゃん! つくしがいっぱい。とって干しているよ」「シイタケも干している」「太陽(1)はハイハイし、つたえ歩きしているよ」「スミレの花、小さい、きれい」など口々に、賑やか。
私の山歩きを追い越す歩きの子どもたちである。
げんは、自分たちの暮らしを「あさって農園工房」と名づける。私の“あ~す農場”か“あさっ”の思いである。絵描き百姓のりさ子は“あさってだより”で近況。
「まっ白だった畑もやっと土がのぞき始め、麦の芽が顔を出しうれしくなるが、うかうかしていると鹿にかじられてしまうので、雪で壊れた柵を直すことがまず春仕事。新月の日に山から竹を切り出し、杭を作り、柵を直していく。そして、やっと種まきだ。去年とっておいた種たちを土に帰していく。小松菜・春菊・大根・カブ・ニンジンなど。夏野菜の種は、温床へ。今年はヌカを入れず、わら(・・)と落ち葉だけの温床作り。今年もよい土と種・野菜・芋ものびのびとたくましく共に生きてきました」と伝える。
4月も6日だというのに、白いこぶしの花の上に雪が降り積もる。来訪の「百姓体験居候」の若者は、「きれいだなぁ」とさかんにケイタイ(カメラ?)。
この「きれい」さも一瞬! すぐ消えゆく。春の忙しなさ。

京都精華大学「農的くらし」ゼミの学生たち アヒル・カモを葬っていただく

3月22~23日、1泊2日で、京都精華大学の「農的くらしゼミナール」の年間最後の卒業研修として、本野一郎教員と学生5人がやってくる。今年で6年目である。
我が農場で昨年「居候」し、あ~す農場の隣で、自力で在来工法の家を建て、今年は自然養豚を目指す利(30)君が、指導に当たる。
学生たち、家の前の不耕起の畑・田んぼを見てびっくり。「うあ~、まっ黒のかたまり(・・・・)! これがおたまじゃくし、うじゃうじゃいる」と叫ぶ。にわとりが、川(4m)を飛び越して畑に入るのに驚き「飛んでいる!」。
利君の指示で、「夕食の用意」だと小屋に入り、アヒル・カモを捕まえる。油断してカモが逃げて、川で悠然と楽しんでいる。やっと捕まえて、葬って、解体する。
畑から雪の下に耐えてきたニンジン・白菜・カブなど採りジャガイモ・玉ネギなどでチキンカレーを作りかまど(・・・)で御飯。
ヨキ(オノ)を手に薪(まき)割りし、五(ご)右(え)衛門(もん)風呂に火をつけ、沸かし、「お湯加減はいかが?」と入浴の賑やかしさ。
初めてボットン便所(土穴)で用を足し、その人糞(じんぷん)をバイオガス装置に投入や、水力発電の仕組みを学ぶ。あっという間の「研修」。
感想です。
「映像で見たことがあるが、実際に見、体験は初めて、新鮮だった」(吉)「とても楽しかった。あ~す農場のまわりには人がいるが、周辺での人口減少がとても印象的でした」(奥)「五右衛門風呂・薪割りなど、普段できないことが沢山出来た」(花)「食べ物(生き物)殺すことから目をそらしてはならないなぁ」(和)「来ての第一印象は、山・全体の景色が落ち着いている。人工のものが少ないから」(金)「初めてのことばかりで、驚きと楽しさ、いろんな感情がいっぱい! 大学出たら、畑もしたい、農的くらしをしたい」(高)
「元気にお過ごしの様子、MK新聞(4/1号)で知り、うれしく存じます。4月入って、朝日も春だと思います。IT技術に背を向け、化石人間として生きる者として、大森さんに同行、心強く思います。IT犯罪や心痛む社会現象など、心痛な現象です。危険な安倍政治もこの病的現実の中で進むのでしょう。何とかせねばと思うこと切実です。お元気で…」と、尊敬する京都在住の槌田たかしさんからお便り届く。

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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